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山姥は墓石の前に花を供える。目を閉じて、思いを馳せている。
「あの、聖石さんは」
「聖石はここに眠っていますよ」
山姥は振り向くことなく答えた。その返答は、先ほどまでの充の喜びを、漆黒で染め上げた。
「それって、まさか、聖石さんは……」
充は山姥に掴み掛かった。
「どうすんだよ! あいつに謝れねえだろうが!」
「どうして聖石に謝りたいんですか」
「決まってんだろ! ゴミみてえなゲームを終わらせるためだよ!」
「聖石にしたことを、反省したわけではないんですね」
「何が反省だ! ただの遊びじゃねえか! あんなの誰でもやってんだよ。おめえの馬鹿息子の出来が悪かったから、支配される側になっただけのことだ! 逆恨みもいいとこだ!」
充は山姥の痩せこけた身体を揺さぶる。山姥の目には光がない。
「どうしてゲームを終わらせたいんですか」
「ああ? ゲームをクリアしなきゃ、一番大事な人の命がなくなるんだよ!」
「あなたの一番大事な人って、誰ですか?」
「そんなの——」
充は頭に浮かんだ人物の名を言おうとした。
言えなかった。
呆然とする充の代わりに、山姥が答える。
「誰も浮かんでこなかったでしょう?」
山姥の言葉に抵抗しようとした瞬間、充は強烈な吐き気に襲われた。
耐えきれずにゴボゴボと音を立てて、血と胃酸と泡が放出される。
充のスマホから、けたたましいアラームが鳴りだす。
充は泡をふきながらスマホを確認する。
『腕輪の設置から百六十八時間が経過しました』
百六十八時間——ちょうど七日である。
『あなたの、一番大切な人を殺害します』
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