あなたの最愛の人は誰ですか?

10/11
前へ
/11ページ
次へ
 山姥は墓石の前に花を供える。目を閉じて、思いを馳せている。 「あの、聖石さんは」 「聖石はここに眠っていますよ」  山姥は振り向くことなく答えた。その返答は、先ほどまでの充の喜びを、漆黒で染め上げた。 「それって、まさか、聖石さんは……」  充は山姥に掴み掛かった。 「どうすんだよ! あいつに謝れねえだろうが!」 「どうして聖石に謝りたいんですか」 「決まってんだろ! ゴミみてえなゲームを終わらせるためだよ!」 「聖石にしたことを、反省したわけではないんですね」 「何が反省だ! ただの遊びじゃねえか! あんなの誰でもやってんだよ。おめえの馬鹿息子の出来が悪かったから、支配される側になっただけのことだ! 逆恨みもいいとこだ!」  充は山姥の痩せこけた身体を揺さぶる。山姥の目には光がない。 「どうしてゲームを終わらせたいんですか」 「ああ? ゲームをクリアしなきゃ、一番大事な人の命がなくなるんだよ!」 「あなたの一番大事な人って、誰ですか?」 「そんなの——」  充は頭に浮かんだ人物の名を言おうとした。  言えなかった。  呆然とする充の代わりに、山姥が答える。 「誰も浮かんでこなかったでしょう?」  山姥の言葉に抵抗しようとした瞬間、充は強烈な吐き気に襲われた。  耐えきれずにゴボゴボと音を立てて、血と胃酸と泡が放出される。  充のスマホから、けたたましいアラームが鳴りだす。  充は泡をふきながらスマホを確認する。 『腕輪の設置から百六十八時間が経過しました』  百六十八時間——ちょうど七日である。 『あなたの、一番大切な人を殺害します』
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加