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充の全身に激痛が走る。
自慢のスーツを地面に擦り付けながら、充はのたうちまわる。
「う、腕輪が、締め付け……ど、毒、が……」
うめく充を、立ち上がった山姥が、無表情で見下ろしている。
「あなたの一番大切な人が誰だったのか、最期に分かってよかったですね」
「た、頼む、たすけ、助け……!」
充が必死の思いで伸ばした手を、山姥は迷いなく跳ねつける。
唯一、息子の墓に供えなかった水仙を、充の腹の上に置く。
「さようなら」
山姥は悠然と背中を向けて、去っていく。
「ま、待て……ああ、あああ、ぐは……!」
充の視界がどんどんボヤけていく。視覚、触覚、聴覚と、どんどん感覚が失われていく。
心臓が最期の鼓動を終えるその時まで、充はとうとう贖罪することはなかった。
山姥の「最も大切な人」に。
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