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『腕輪を外すには、これまであなたが犯した罪を、償う必要があります。一週間以内にすべての罪を償うことができれば、ゲームクリアとなります。ゲームをクリアできたのかは、腕輪が外れたかどうかでご確認ください』
「罪……?」
充は眉間にシワを寄せた。自分は犯罪で捕まったことは一度もない。何を償えというのだ?
ゲーム説明は最後の一文に到達した。
『ゲームに失敗した場合、あなたの一番大切な人が死にます』
充の脳裏に、妻と娘の笑顔が浮かんだ。
「お父さーん! お母さんが待ってるよー!」
廊下から、愛らしい丸みを帯びた声が聞こえてきた。スマホをポケットに突っ込んだ充は、平常な顔を作り込んでリビングに向かった。
テーブルを彩る朝食は芸術だった。冷凍食品も、スーパーの惣菜も、チルド食品もない。すべての料理に妻の愛が注がれている。
「紗里奈。今日は学校が終わったら、ポノカワの撮影よ」
母の言葉に屈託のない笑みで答えた娘は、小学四年生にして、雑誌のモデルを務めている。「五年ぶりの満場一致で大賞受賞!」と大々的に広告された。
しかし、勉学が疎かになることはない。私立小学校の入学試験を首席で突破し、その立ち位置は、四年目の今も不動である。
学校の集まりの度に、他の親から十把一絡げな視線を向けられる。それは充を昇天させるのだ。紗里奈という最高傑作を作り上げた父親なのだと。
宿題を律儀にこなすだけの不細工なガリ勉、少し顔がいいだけしか取り柄がないスイーツ脳、庭を駆け回るだけの、将来は低賃金肉体労働者確定のゴリラ、ゲームやパソコンが友達の引きこもり予備軍……こんな劣悪品しか作れなかった親のプライドを、紗里奈はズタズタにへし折るのだ。完璧とは残酷だ。
食事を終えた充は、シワひとつないスーツを身にまとい、妻から鞄を渡され、家を出た。
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