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『そういえば、お釣りを多くもらったことがあったなって。調べてみたら、お釣りが多いって気づいていたのに返さないと、詐欺罪とか、ナントカ横領罪? になる可能性があるんだって。それで、その店に行って返してきたら、腕輪が外れたんだよ!』
『そういう軽いものも含まれるってわけか』
『ネットを漁ったら、ゴミを前日に出すとか、自分に処方された薬を他人にあげるとか、道端に唾を吐くとか、他にも色々あるっぽい!』
充は即座に「意外と知らない犯罪」で検索をする。その中から、思い当たるフシがあるものを、手帳にピックアップする。
二ページ埋め尽くしたところで、ようやく作業が終わった。
(これを後六日で謝罪して回るのか……くそっ、なんでこんなことを! こんなの、誰だってやってるだろうが、何で俺だけがこんな目に!)
充は頭を掻く。だが、いつまでもこうしてはいられない。
とりあえず、出勤前に、二十四時間営業のスーパーに行くことが決まった。一度カゴに入れたが、やっぱり止そうと戻した冷凍食品。いちいち冷食売り場に戻るのが面倒くさくて、常温の菓子コーナーに放置した。その償いをせねばならないからだ。
*
思いつく限りの罪滅ぼしを終えたのは、金曜日の夜だった。だが、充を縛り付ける銀色の腕輪は、依然として絡みついたままだ。
自慢の妻が作った夕食も、味を感じなくなっていく。
「お父さん、明日どこかに行こうよ! 明日は撮影もお休みなの」
父の鼻を高くする娘の笑顔も、忌まわしいとさえ思ってしまう。
「明日と明後日は、用事があるんだ」
「えー。この間は大丈夫だって言ったでしょ」
「うるさいな! 急用なんだよ!」
充の立ち上がった勢いで椅子が倒れる。残した夕食を片付けることも、椅子を直すことも、呆然とする妻娘に声をかけることもせず、充は部屋に閉じこもった。
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