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充は一心不乱にパソコンの画面を向かい、キーボードを叩いている。
「なんなんだよ……償わなきゃいけないことなんて、もうないだろうが……!」
近道のために畑を無断で通り過ぎたこと、大学時代にゴミを前日に出したこと、高校時代に親宛の郵便物を勝手に開けたこと……すべて謝罪して回ったじゃないか。屈辱の苦味を噛まされながら。
それなのに、この腹立たしさの象徴たる腕輪は平然としている。
充は、軽犯罪についての情報を検索している。こんなもの、誰だって一度や二度、やったことがあるだろう。
充は舌打ちした。広告に閲覧を妨害されたのだ。今は漫画など読んでいる場合では——
『学校に潜む犯罪を、弁護士が斬る!』
漫画広告の煽り文句。普段なら気にも留めないが、今の充は「犯罪」という単語に敏感だ。
広告をクリックすると、漫画のサンプルが表示された。充は黙々と読み進める。
『俺たちは万引きなんてしてねえし! やったのはグズの田代だろ! カメラでも何でも見てみろよ!』
『万引きをしなかったら、骨を折ってやると言っただろう。これは窃盗教唆、脅迫に該当する。立派な犯罪だ。君たちを裁くには充分なんだよ』
男子学生と弁護士のやり取りが、充の背筋をゾワゾワと撫でた。
まるで、充自身の中学生時代そのものだったからである。違うのは、充の場合、弁護士の男など出てこなかったという点だ。
充は部屋を飛び出した。押し入れに直行し、中学時代の卒業アルバムを掘り起こす。
鮮血色の表紙のアルバムを見つけ出した充は、ある男の写真を探す。
皆が色とりどりの笑顔を浮かべる中、ひとり、真っ黒な真顔で写っている男。
『清埜聖石』
「こいつにしてきたことが……犯罪?」
充は回想する。
確かに、「万引きしてこいよ」なんて、軽いノリで言ったことはある。でも、ただのネタじゃないか。「あいつムカつく!」と言った友人に「じゃあ殺しちゃえよ」と笑いながら言ったところで、それを真に受けて本当に人を殺す奴がいるのか?
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