あなたの最愛の人は誰ですか?

8/11
前へ
/11ページ
次へ
『清埜くんは確か、お母さんの実家に帰ったんじゃなかった? 両親が離婚したって聞いたよ』 『中学の卒業式の日、母親と会話してたの聞いたぜ。小虞丹(こぐに)(まち)に行けば、もう大丈夫だってさ』 『今は志知(しち)って苗字だって聞いたよ』  電話レースの末、遂に有力な情報にたどり着いた。充は家を飛び出し、住宅地図を購入に走る。  住宅地図の購入から帰る頃には、妻も娘も眠っていた。それはかえって好都合である。  リビングのテーブルに地図を広げ、小虞丹町の志知家を探す。  それを発見する頃には、日付はとっくに変わっていた。しかし、これでも幸いな方だ。小虞丹町の住宅数は驚くほど少なかった。  ようやく見つけた、ゲームを終わらせるための最後のピースに、充は蛍光ペンでマルをつける。 「手間取らせやがって……あの陰気男が」  舌打ちと同時に住宅地図を閉じ、充は自室のベッドに向かった。  *  日曜日の曇天の早朝、充は車を走らせていた。  妻と娘とは会話していない。このふざけたゲームが終わったら、機嫌取りのためにケーキでも買っていけばいいだろう。  目的地に近づくにつれ、景色はどんどん古ぼけていく。コンビニもスーパーもない、発展という言葉から追放された地だ。  何が好きで、貴重な日曜日に、こんなしけた場所に来なければいけないのか。充は大仰に息を吐く。  志知家は山里にあるようだ。首都では見られないだろう、砂利道の急な坂を登る。折角の新車に傷がついていないだろうかと、充はヒヤヒヤする。  ぼうぼうと生える草木に囲まれた、木造の一軒家。住宅地図によると、大層貧相なこの家こそ、志知家のものであるらしい。  一応スーツを着てきた充は、ネクタイが曲がっていないかを確かめる。表面上は取り繕っておかねば、謝罪を受け入れてもらえないかもしれない。  外面を完璧に整えて、充は呼び鈴を鳴らした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加