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引き戸が恐る恐る開いていく。扉の向こうに立つ女を見た時、充は声を上げそうになった。
シワだらけの顔、白髪混じりのボサボサの髪、田舎の臭いを纏った割烹着……山姥ではないか。妻と同じ女だとは思えない。
「どちら様ですか」
かすれた汚い声で訊ねられ、充はハッと我にかえる。
「突然すみません。私は、伍井充といいます。こちらに、聖石さんはいらっしゃいますか。須渡英中学で、同級生だった」
充が自身の名前と、中学校名を出した時、山姥の無造作な眉がピクリと動いた。
「聖石の母ですが……何か御用ですか」
確信をもった充は、深々と頭を下げる。
「私、聖石さんにしてしまったことを、謝りたいんです。あの時は、本当に申し訳ないことをしてしまった。若気のいたりで、聖石さんを傷つけてしまって……どうか、聖石さんに会わせてください。謝罪をさせていただきたいのです」
充は腰を折った。地面では蟻がウヨウヨしている。
「……分かりました。ちょうど、聖石のところに行くところでしたので、ご案内いたします」
充の口角が上がった。これでこの、クソみたいなゲームが終わる。腕輪から解放される!
聖石の母は花束を抱えてから出てきた。猫背の山姥の後ろを、充はニヤニヤしながら歩く。
——山姥は緩い坂を登っていく。道は思いのほか整えられている。
川のせせらぎと、虫の声だけが聞こえる空間を、二人は進んでいく。
カーブを曲りきった時、充は違和感を覚えた。こんなところに聖石がいるのか?
「着きましたよ」
山姥が立ち止まったことで、充の疑問符はさらに大きくなる。
辺りを見回しても、人の気配はない。
「あの、これは、どういうことです? 誰もいないみたいですが」
「聖石はここにいますよ」
山姥は右隣に視線を落とした。
二人が立っているのは墓地である。
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