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1-2 潜入2
小高い丘を乗り越えた先で、目的の柱を完全に視界にとらえた。とは言っても下部だけだ。そのまま上を見上げれば、遥かな高みまで白い円柱は伸びている。
「座標まで入ったわね!」
またしても少尉の叫び声だ。心配してくれるのはありがたいが、少々うるさい。
「そんな叫ばなくても聞こえてますよ」
「無駄口はいい。柱の下部が見えたのね?」
「ええ、見えてます。あれにしがみ付けってんですか?」
「違うわ。そのままマザー後部側へ回り込んで。そこにラダーがあるはずよ!」
「らだー? まさか本気でこれを登れってんですか」
「うるさいわね。とにかくラダーへ取り付いて。後のことはまた話すから」
なんだってんだ、本当に……。しかし俺の生きる術はどうやらこれしかないようだ。俺はスロットの引きを弱めるとオーストリッチを大きく右へ旋回させ、白い柱の裏側に回り込む。
「あれか」
少尉の言葉通り、柱の表面に簡素なフレームが見えた。ラダーと言っても人間が手足で登る開拓初期の骨董品、ようするにただの梯子だ。これじゃあ乗組型推進機オーストリッチは置いて行くほかない。
「少尉、見えましたよラダー。この機体は放棄で良いんですね」
「仕方ないわ。上には課長と一緒に頭を下げておく。とにかくラダーにしがみ付いて! セントラルから悲鳴のような報告が入っているところよ」
確かに、俺がカーブを描いて柱後方に回り込んだその短時間で、明らかに柱は上昇を始めていた。それと同時に、勢いよく前方へ走り始めている。これはいよいよやばい。
俺は腰の安全帯からスティキィロープを引っ張り出すと右手で構え、左手でスロットを再び全開にする。すでにマザーの速度はオーストリッチの最高速度と変わらないまでに加速していた。このまま亜光速を超えるまで、もう残された時間は五分とないだろう。
「ワンチャンスだな」
ドライブモードをエクストラシフトに叩き込み、ぺろっと舌で唇を舐める。じわじわ近づくラダーへ狙いを定め、俺は右手のスティキィロープを投げつけた。ロープの先端がラダー手すりにべっとり粘着したのを確認し、オーストリッチから飛び降りた。ここで一気に円柱の上昇速度が上がる。気づけば、足元は空中数十メートルだ。安全帯を操作しロープを巻き取ると、なんとかラダーを手で掴むことができた。
「はあ、やれやれだ」
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