1-6 潜入6

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1-6 潜入6

「準備は終わったか?」  耐熱タイルの束がジャラジャラと重たい外套を脱ぎ捨て、バックパックから取り出した栄養タブレットに齧り付いていると、再び頭上からオーツカ課長の粘っこい声が降ってきた。 「着装火器の類は、全て外しました。携帯用のハンドガンと電磁ブレードは持っていってはダメですか?」 「気持ちはわかるが、却下だ」  丸腰で未開の地へ入れってことか。通話管に拾われないよう低音で呪いの言葉を吐く。 「君の渋い顔が目に浮かぶよ」 「いや、その」 「言い訳せんでいい。私だって同じ立場なら、そうなる」  安全地帯から気楽に言ってくれるよ。あんたの立場なら、こんなところに来ることはない。 「さっきも話したが、我々管理中枢は移民連合に対し管理権限がある。しかしその関係は非常にデリケートなんだ」 「はい」 「強力な火器を携帯して彼らのエリアに入ることは極力避けたい。ましてや今回は、事後報告のグレーな入界になる。わかるな?」 「理解しているつもりです」 「移民連合の支配圏内では、火器を始めとした強力な武器は所持禁止だ。エリア内に武器は無い」  そんなものが建前だけなのは、俺もこの男もよく知っている。実際、年に数回はどこかの移民エリアで銃火器を使った騒動が勃発し、護衛軍治安部の連中が出動していた。ましてや今回は辺境も辺境、まさに未開の地だ。何があるかわかったものでは無い。 「エリアへの入界時は、手ぶらで行くこと。わかったな。護衛軍きっての近接戦闘のマスターなら、何があっても素手で大丈夫だろ」  俺の戦闘力を褒めてくれるのは嬉しいが、逆に言えば中でトラブルがあるのは想定済みってことだろう。それにこの男は言わないが、武器を携帯した俺が、中で殺されるケースを想定しているのは間違いない。俺たち護衛軍が所持する武器は強力だ。それが移民の手に渡った時、何が起こるか。そんな懸念を上層部は持っているのだろう。 「トラブル時、素手なら暴れても良いってことですね」 「少しだけ……な。いいか、極力トラブルは避けてくれ」  オーツカ課長は粘っこい声でそう言って、少し媚びるように笑い声を響かせた。
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