2-1 邂逅1

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2-1 邂逅1

 薄暗い部屋の奥。金属隔壁の一角が、グリーンに変色発光し横へスライドした。たちまち青白く強い光が部屋に差し込む。この色はマザー内部でよく使われている、有機発光板によるものだろう。 「扉の開放時間は三十秒だ。速やかに通過するんだ」  俺はオーツカ課長の声に急かされるまま、光り輝く穴へ体を滑り込ませた。 「?!」 とそこで、踏み出した足が宙を蹴り、体が一気に左方向へ引っ張られる。 「え? アレ……」  何が起きたかわからず、体を部屋へ戻そうと扉枠にかけた手に力を込めるが、無情にも扉が閉まり始めた。 「ちょ、課長、ちょっと待って」  慌てた声も虚しく、俺は青白く輝く空間に取り残された。  右手はかろうじて扉枠を掴んでいるが、体は完全に空中だ。目が明るさになれず、現状の理解が追いつかない。焦る心を宥めつつ、腰の安全帯から左手でスティキィロープを引っ張り出し、扉枠下端に貼り付ける。 「ふー」  ロープの接着を確認し体重をかけると少し落ち着いた。次第に目も明るさになれてくる。  俺はどうやら地上10メートルほどのところにぶら下がっているらしい。部屋へ通じる扉があった側は、一面が巨大な金属隔壁だ。そしてその壁から目を翻すと、遥か彼方まで広大な空間が続いていた。円柱の内部だとの知識があるので、その世界が大きなパイプ状に続いているのだと理解できるが、知らなければ屋外に放り出されたと思うかもしれない。 「擬似重力の発生方向が違ったのか」  ようやく自分がなぜ”左へ落下”したのか理解できた。最初にいた部屋とこの空間では、マザーが発生させている疑似重力の働く方向が違ったらしい。まったく事前に教えておいてもらいたいものだ。    マスクを外し晒した頬に、しっとりとした空気を感じる。大気中の水分が多いのだろうか。
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