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不幸ヤンキー、”狼”に定められる。【4】
「え~、躑躅が行ってくれないの~? この日もよろしくって言ってたじゃん!」
哉太の反対側の席に座っている瓜二つの男、皆嶋 躑躅は実弟である哉太の要望に応えられないでいた。
―この当時の哉太は1本目のベストセラーを出したは良いものの、まだ売れ行きは安定しておらず非常勤の物理講師としても働いていたのだが…年下以外は極度の人嫌いであったのでこの時にも兄である躑躅に代わっていたものだ。
そんな偏屈で人嫌いな弟のワガママに、普段の彼を甘やかし、優しすぎる実兄は今回ばかりは代われない用事があったのである。
「ごめんね? ちょっと開発のゲームでまだプロジェクトが終わりそうにないんだよ~。…皐月本当にごめん!」
「そんなこといいじゃ~ん。もう会社辞めて俺のアシスタントになってよ~?」
「いや…これ以上、皐月を甘やかすなって父さんからも言われているし…」
「父さんがかよ~。…いいじゃん~、別にさ~?」
哉太の本名である皐月に謝る躑躅に彼はふて腐れ、文句を募らせる。…しかし、そんな皐月こと哉太に大声で笑いながら担当編集の撫子は彼の肩を叩いた。
「はっはっは~、まぁいいじゃねぇか! お兄ちゃんも忙しいってことが分かったろ~、俺様なに様場磁石様よ?」
「…撫子バカにしてるでしょ?」
「それはただの被害妄想だ~、はっはっは~!」
高らかに笑ってはムカつく言い方をする撫子に哉太は子供のような言い草をしてこの状況を何とかしようした。…何とかするというのは、その人物に会わないようにする為の言葉である。
「じゃあ書かないよ~、テーマパークを舞台にした恋愛小説」
「それは困るな~、だったらこれからはお兄様の手助けは今後は無しにして―」
「…なんで舞台がテーマパークってだけなのに若社長に会わないといけないの? …意味が分かんねぇ」
さすがに今後とも躑躅の手助けはかなり必要であったので哉太は苦々しく承諾をする姿勢を見せる。だがどうしても納得はいかない。
―どうして自分が小さいテーマパークの若社長に会わねばならないのかを。そんな彼に撫子は再び大きく笑うのだ。
「はっはっは~、いや~、それがご本人からの指名だったんだよ~!!!」
「…なんで?」
「良かったな~、ネタが枯渇しなくて!」
背中をバシバシと叩く撫子に哉太は反撃をするかのように自分も思いっきり撫子の背中を叩いた。
―――バッシンッッ!!!
「いっだぁ!??」
さすがに威力の強い返しに撫子は床に倒れ伏す。2人の攻防に躑躅が呆れているさなか、哉太はもう一度彼に問い掛けるのだ。
「…だからなんでよ?」
「…それは…分からん…」
「はぁ~…聞いた俺が悪かった」
そんな彼らの様子を見て躑躅はふと思うのだ。
…この2人ってどうして馬が合うのだろう?
哉太が大学で出会ったのOBでなおかつ担当編集である2人の関係性に実兄は疑問に感じているのであった。
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