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不幸ヤンキー、”狼”とぎこちなくなる。【3】
―囲戸 心は突然現れて幸の家に来た。初めは厄介ごとが増えてしまったとか、幸との甘いひとときを邪魔されるのではないかと危惧していたのだが…。彼女は逆に突然押しかけてきてわがままを言うのかと思えば、自分をまるで”居ない存在”かのように、自分達に気を遣っていたのだ。
―まだ幼い少女であるにも関わらず。だから彼女の不可思議な行動に2人は困惑もしたものだ。…そんな彼女は本当に行き場の無かったからここにやって来たのか。…彼女を、心自身を傷付けてしまった哉太が居座っているのを知っていても…か。
だから哉太は呑気に打ち合わせをする撫子の話など聞き流しながら考えていた。
…一体、心はどこでなにをしていたんだろう。本当に野宿でもしていたんじゃ…?
「お~い、場磁石~。聞いてんのか~、お前―」
「ごめん撫子。…俺やっぱり心配だわ!」
「…はぁ?」
話の途中であっても哉太は気にせずにはいられない。どこか儚げで、可憐で…人を魅了さえしてしまう彼女を…心に哉太は本当の魅了されてしまった。…だから彼は担当編集との打ち合わせを見送り、幸に電話を掛けようとするのだが…彼からも連絡が来ていたようだ。
「…なんだろ。花ちゃん、俺に何か…。もしかして…」
…今日こそは夜の営みを?
「じゃなくてっ、あ~もうこんな自分が嫌だ~。早く除夜の鐘でも聞きたいぐらいだよ~、本当に!!」
余裕の見えない冗談はさておき。心が心配であったので哉太は幸に電話を掛ける。今まで聞いたコール音よりもなんとなく長さを感じつつ、哉太は幸が出てくれるのを願った。
―するとコール音が止んだ。
『もしもし哉太さん、…良かったのに。メッセージだけ読んでくれれば』
「いや~。花ちゃんと話したかったし。…ところで心は居るかな?」
本当は幼い彼女のことを話そうと哉太は思っていた。…しかしこの変態狼。彼はまだ小さい蕾よりかは育て上げた大輪で儚げな彼岸花を選んだようだ。
『心ちゃん? 今日は親戚の家に泊まるらしいよ』
「いや実は―」
『…今日さ、哉太さんの家に泊まっても良い?』
「……っえ?」
…幸が、誘ってくれた~!!!?
変態狼はその言葉でノックアウト。彼女のことなど忘れては、まだまだ未熟ではあるものの艶やかで、無自覚だが愛しくて堪らない青年の言葉に耳を傾けたのだ。…やはり根は腐っているから腐っているのである。…雑草ほどの図太さは忍ばせてはいるが。
「えっ、なんで…また?」
哉太は言って欲しかった。…最近は恋人としての行為もご無沙汰でなにも出来ていないことを。恥ずかしがり屋の幸から言ってくれたら自分の脳内は幸せに包まれると。
―しかし、そう上手くはいかない。
『あっ、いや。…心ちゃんが親戚の家に泊まるって言うし、最近は哉太さんの家の掃除出来ていないだろ』
「あ…あ~…」
『だから掃除にでもって』
青年は未熟であるから媚びなど売らない。…ただ変態狼こと哉太の気持ちは急降下。
「…それだけ?」
期待で膨らんでいた妄想がしぼんでいく様に哉太の声のトーンは落ちるが、幸は続けて言い放つ。本人は悪気が無いようだが、明らかに哉太を利用しているというばかりの言葉を並べるのだ。
『あと勉強教えて欲しいんだよ。…いっつもごめんな~家庭教師にさせちゃって。…じゃあマンション近くで待ってるから』
切なく消えてしまった連絡に哉太は溜息を深く吐く。しかし哉太は諦めずにいた。
「いや、今日は花ちゃんが泊まってくれる日!」
…ツンデレな花ちゃんだからちょっと何かしら仕掛ければ…必ずエッチな展開になるはず!!
「…よ~し。マンネリ防止作戦だー!!!」
大きな声で言い放つ哉太を通行人は彼を不審者だと思うのであった。
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