不幸ヤンキー、”狼”と共有する。【1】

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不幸ヤンキー、”狼”と共有する。【1】

 ―お互い気まずい朝を迎えてしまった。…だが幸は自分自身も悪いとは思ってはいるものの、どうしても哉太へ謝罪をする気にはなれずにいる。当たり前だ。彼はまだ高校2年生、かつ17歳。普通の高校生よりかは苦労した人生は送ってはいるのだから、それなりに彼自身の人生観に関しては普通の高校生よりも知恵はあるはずだ。でもそんな彼は今、新たな知識を得ようと必死なのだ。  ―『哉太と釣り合えるような人間』を目指す為に。幸なりに哉太のことを考えて、掲げた目標なのだが…それが仇となってしまった。だから幸にとっては、哉太と釣り合えるような人間になろうとしているのにも関わらず哉太に(はばか)れた。…邪魔をされたというように考えてしまうのだ。  一方、哉太の自身も悪気があるという自覚はあるのだが…。…本来、彼は極度の人間嫌いであるにも関わらず”性欲”は他の人間よりもかなり逞しく育ってしまった。本来の哉太は人間など毛ほども興味は無く、”性欲”に関してはかなり寛容…いや。度を超えているといった様子であろう。はっきり言ってしまえば容姿以外は”クズ”なのだ。  ―ここでは割愛をさせて頂くが、幸と恋人になる前は彼とのような関係であった。その当時は幸が今よりもかなり無知であったというのもあるが、友人で警部補の人間に彼が哉太との経緯を伝えれば…即刻、児童ポルノ虐待で逮捕されるのは確実。  …そんなクズ人間ではあるが。そんな哉太なりにも、幸のことを本当の意味で惚れてしまったからこそスキンシップを求めているのだ。…つまり哉太の中では性行為こそがと考えてしまう節がある。だから彼にとっては恋人としてのスキンシップを。性行為がしたいという…幸よりもかなり幼稚ではあるがどこか真髄を得ているような考えをしている。  ―まぁ言うなれば…2人とも子供なのである。…哉太の方は『大人なのだからしっかりしろ』と言いたいぐらいだが。    ―そんな2人はぎこちない様子で朝食を摂り、会話をしないまま幸が学校へと向かおうとした時であった。  ―――ヴヴヴゥ…ヴゥゥゥ!!!! 「花ちゃん、スマホ鳴っているよ。…出れば?」 「あ…うん」  哉太の少しそっけない態度に幸は少々、憤りと共に自身の非が招いた後悔の念を抱く。だが電話に出てみれば…相手は心からであった。 「…心ちゃん、どうしたの? 合鍵、持ってるよね?」 『…やっぱり、そうなってしまったんですね。…これも、私のせいですね』  2人の未来を予知していたかのような、彼女の発言に幸は疑問を感じた。彼女の消え失せた能力であった”テレパシー”は消失したし、予知能力など無い。だがそれでも、彼女は彼らの最悪な事態を自分が招いたような発言をするので、幸は戸惑いを見せた。 「えっ…。どういう意味かな?」 『…言葉の通りです』 「心ちゃんは何もしてないし…どうしたの急に?」  すると彼女は消え失せそうな声で言い放つのだ。 『いえ…。私の責任です。やはり私は…どんな方でさえも不幸にしてしまうのですね』  いかにも自分に非があるという彼女の言い草に幸は違和感を覚えた。もしかしたから親戚間でなにかがあったのではないかと疑い、幸は話し続ける心へ尋ねる。 『私はそんな人間だったのですね。…生きていて恥ずかしくなってしまいます』 「…心ちゃん、親戚の人に酷いことでも言われたのかな? …哉太さんは無理そうだけど、俺で良ければ―」 『私に親戚なんて居ません。…あるのは、母が眠るお墓だけです。…私はそこの住職さんにお願いをして、寝泊まりをさせて頂きました。…私のような人間は、亡くなった母と共に眠るだけで良かったんですよ』 「……えっ?」  衝撃的な事実を初めて聞いてしまいさらに困惑をしてしまう幸。彼の顔が強張りを見せていくのを哉太は気になりつつも、彼とは喧嘩中であるので無視してしまう中、幸は心に問い掛けようとするのだが…。さらに彼女の言葉は加速していく。  ―あらぬ方向へと。 『…嘘を吐いてしまい申し訳ありませんでした。もうあなたや…場磁石さんにはご迷惑をおかけしません。…これは全て、私の責任です』 「心ちゃん、話が見えないよ! そんなの心ちゃんのせいじゃなくて―」 『もう私は誰の迷惑も掛けません。合鍵はポストに入れておきます。…今まで本当に、本当に…ありがとうございました』  ―――プチン。  切なげに閉ざされた無機質な電話の音に、幸は不安げな顔をする。そして不機嫌な表情を見せている哉太に伝えようとするものの…彼があからさまな態度を取るのに苛立ちを覚え、無言のまま哉太宅を離れるのであった。 「…はよ。フライに…ジュジュちゃん」 「おはよ…って、さっちゃんが遅刻してない!??? 今日は絶対なんか起こるよ!」  普段であれば遅刻して来る幸が登校時間に間に合って来たので、フライは激しく驚いて見せた。だが、絶賛喧嘩中の幸にとってはそんな態度に怒りを感じてしまう。だから彼は普段よりもさらに目を鋭くさせてしまった。 「フライ…うるさい。…余計なこと言うな」  本人は普段はわざと目じりを下げて気にしているツリ目を、今は鋭い眼光で幸が自分を一瞥され、フライは軽く悲鳴を上げた。幸は悪気はないであろうが普段よりも音を立てて座ってはふて腐れる様子にフライは戸惑いを見せた。 「…ごめん、さっちゃん。悪気は無かったから…」 「あっそ」  フライが謝罪するものの幸は不機嫌な様子で自分の机でふて寝しようとする。だが思考は心と喧嘩中のことでいっぱいであった。  …心ちゃん、何があったんだろう。哉太さんとも喧嘩したし。…俺ツイてないな~。 「幸君。ちょっといいかな?」 ふて腐れている彼ではあるが、そんな彼を気に掛けてくれる菩薩を体現した少女に、彼は衝撃的な事実を聞いてしまった。  …それは、意味深な言葉で別れを告げられた少女、囲戸 心についての情報であった。
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