不幸ヤンキー、”狼”と共有する。【3】

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不幸ヤンキー、”狼”と共有する。【3】

『もしもし、さち? …幸?』  幸は自分の携帯を落としたことさえ忘れる程の猛スピードでビルへと向かった。彼女がしでかすことが分かってしまったのだから。自前の運動神経でエレベータを使わずに階段を2段飛ばし、駆け上がり…やっとの思いでビルの屋上へとたどり着く。  ―――バァァァンッ!!! 「はぁ…はぁ…はぁ……」  ドアを蹴破るように開けて息を切らしていれば心はその音に驚き、真っ赤な顔をして息を切らしている幸の姿にも驚いた様子であった。そんな彼に心は目を見開いて問い掛ける。 「彼岸花…さん。どうし…て?」 「どうしてじゃねぇよ! バカ!!!」  すると彼女は切なげな表情で幸を見ては自身の手を胸に引き付けて儚げに笑う。 「……こんなことをする私がですか?」 「違うよ!!」  少々驚いているが、彼女の悲哀に満ちた顔に幸は言いたいことがありすぎてまとめられない。だがそれでも幸は叫ぶのだ。彼女に死んでほしくないと本気で願っているから力を込めて説得をする。 「こんなことで死ぬなんておかしいって言ってんだ!!! 君を傷付けているのは、君のことなんて何もわかっていない人間達だけだよ。…そんな奴らの為に君は死んじゃいけない!」  幸の言葉に心は再び目を見張るが再び顔を暗くさせてしまう。どこか諦めたような、もう自分自身ではどうにもならないような、分からないといったような様子であった。だから彼女は言葉を紡ぐのだ。 「…そんなの分かってますよ。でも私はその人たちも、お父さんも…裏切ってしまった。…死ぬことで罪を償えるのなら―」 「そんなことで罪なんか償えるか!!!」  怒鳴ってはいるものの必死になって訴えかける幸に心の黒い瞳は揺れ動く。 「……じゃあどうしたらいいのですか。私には…分かりません。…どうしたら、この辛い思いは無くなるのですか?」  心の叫びに幸は彼女と向き合いこのように言い放ったのだ。もう彼女を、心の苦しみを分かってあげられるような…そんな自分になれるように、彼は決意表明をする。 「君にはお父さんが居る。それに俺や哉太さんも居る。君は1人で戦っているわけじゃない。…君が辛かったら俺や哉太さんが聞くよ。そしてその辛さと戦うよ」 「……本当ですか?」  彼女の目尻に涙が浮かぶ。だから幸は心にゆっくりと歩み寄り、手を伸ばしたのだ。 「…君は1人じゃない。だからこっちにおいで。…君のお父さんではないけれど、俺が君の…心ちゃんの辛さを分かち合いたいから…ねっ?」  にっこりと微笑んでから幸は心に訴えかける。すると心は幸の真っすぐな言葉に心を打たれ彼の元へと行こうとした…その時であった。  ―――ビュゥッッ!! 「…っえ?」  ―なんと強風によって心の上体が崩れてビルに真っ逆さまになってしまったのである。幸は慌てて手を伸ばすが、手が届かなかった。 「心ちゃん!!!!」  幸を含めた観客の誰もが心は死んだと思った。自殺、事故で片付けられるのかと思ってしまった。幸は衝撃で頭が真っ白になり叫びそうになっていた。…しかし状況は一変する。  ―――パァァァンッ!!!  聞き覚えのある破裂音で目を開けると…。 「あれ…、。心ちゃんが、浮いてる?」  破裂音が響いたか思えばなんと心の身体は浮いていたのである。驚いて目を見張った幸だが、浮いている心を自身に引き寄せて抱き寄せた。そして衝撃で気絶をしている心を見て思う。  …肌が青白い。ちゃんとご飯を食べさせてあげよう。スキンシップも取ろう。もうこんな…。 「―悲しい思いをさせちゃダメだ。ごめんね、心ちゃん…」  独り言を呟くと心は少し動き出し目をゆっくりと開いた。自分が生きていることにも驚いたが、目の前に居る幸が泣きだしそうになっているのにも驚く。でも1番は、という感情であった。 「私…生きているのですね。…あは、こわかった…です」 「生きているよ。心ちゃんは生きているから。だからこれからは一緒にご飯食べよう。…心ちゃんを苦しませて本当にごめんね…」  真剣みを帯びた幸に心は再び涙を流しそうに…いや、勝手に流れていた。こんな風に涙を流すのはいつぶりなのかと思うほど泣いていなかった。 「でも、どうしてわたし…は、助かったのでしょうか?」  当たり前だがどうして自分が助かったのかが分からない。泣き出している心は幸に疑問を問い掛けようとすると…遅れて屋上にもう1人参上したのだ。  ―それは一緒に泣き出してまいそうになっている幸が、安心して泣いてしまうほどの人物である。 「あぁ~、間に合って良かった…」 「あ…あなたは…」  泣き出している心に彼は…哉太は2人に駆け寄り抱き締めた。そして優しく笑い掛けるのだ。 「心が自殺したらさ…俺、困るんだけど?」  その優しげな言葉に心は安堵を抱いて泣き出してしまったのだ。
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