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車が会社の駐車場にたどり着く。
「会社……行かねえの?」
「え?」
運転席から神様に尋ねられ、ふっと意識が現実に戻ってくる。幸紘は荷物を手にのろのろと車から外へ出た。
「ユキ」
振り向くと運転席から助手席に神様が身を乗り出していた。助手席の窓がゆっくりと下がる。
「しばらく昼間は車借りる。使った分のガソリンは入れとくし、迎えはいつもの時間に来るから」
「あ、はい」
「あとな……」
神様は少し神妙な柳線形の目で幸紘を見た。
「ユキが望む事をしろよ」
ぱしゃん、という水音が幸紘の中に広がって、神様の言葉がすとん、とその胸を貫いた。
「前の質問の答え。ヒロって形に魂を縛られる必要は無いんだぜ」
助手席の窓を閉めながら、神様はそう言って運転席へと戻る。車は何度かエンジンを空ぶかしして動き出すと、駐車場を抜けていった。
「俺の……」
なにかが、幸紘の中で溶けていく。それが何か、幸紘にはわからないけれども、確かに。
「……望むこと?」
幸紘は去って行く車の後ろ姿をじっと見送って呟いた。
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