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マコはそうねと納得したようだった。
既にほぼ生前の姿を取り戻していたが、唯一絶対に元には戻らないものがある。
肩まである髪をよく耳にかけていたマコ。時々、間宮もマコの髪をそっとかけてやっていた。
「アンドロイドにデータを載せているだけだから、触れられないのがな……」
基礎はあっても肉付けは映像みたいなもので、触れられない仕様になっていた。究極本物に近づけた、単なるデータの塊だ。
マコも自分の手を広げて動かしてみたりした後、近くにある窓に触れてみようとして、そのまま手が透けるのを何度も試していた。
「元には戻れないのね」
「長い事待ったが、そこまでは再現できなかったんだな」
悲しいわとマコが呟いた。
間宮は顔を背け「でも、痛みも感じないし、悪いことばかりじゃないさ」と、返した。マコがジッと間宮を見つめているのを感じ取っていたが、素知らぬふりをして窓へと歩み寄った。
「もうすぐ冬になる」
「金木犀の季節が大好きなのに、終わっちゃうのね」
「また来年見られるさ」
短い沈黙。会話が思うように弾まないのは、きっとまだ読みきれてないデータがあるからだろうし、間宮とて眠りから覚めたばかりで頭が上手いこと回っていない。少し時間が必要だ。
「ちょっと仮眠をとろう。君も休んだ方がいい。色々と整理されるだろうし」
言い終えてマコの方へと体を向けると、思いの外、刺すような鋭い視線に間宮はたじろいだ。それと同時に腹立たしく感じ、口を開く。
「なんだ。その反抗的な目は」
「思い出したの。支配したがるあなたの性質を」
幸福な時間が一気に弾けた。フワフワとしたシャボン玉が壊れた時のように、形を失った。
「せっかくやり直すために色々手を尽くしたというのに、なんだその言い草!」
つい怒りを抑えられずに唇を震わせると、マコは目を細めて薄く笑った。
「懐かしい。何もかも昔のまま」
いつからマコは人を見下した物言いをするようになったのか。そのあたりのデータは消去したはずだった。遡るのが甘かったらしい。死ぬ数年前よりもずっと以前からの記録を消しておくべきだった。しかしながらもう一度アンドロイドにデータを読み込ませるのをやり直すのはムリだ。リセットするのには更に金が必要だと説明されていた。
「そんなことない。俺は変わった。君も変わった。昔のままではない」
マコは再び手を見下ろして、指を曲げては伸ばしてみている。
「そうね、確かに変わったかも。少しばかり若返ったみたい」
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