2

2/3
前へ
/7ページ
次へ
 マコはそうねと納得したようだった。  既にほぼ生前の姿を取り戻していたが、唯一絶対に元には戻らないものがある。  肩まである髪をよく耳にかけていたマコ。時々、間宮もマコの髪をそっとかけてやっていた。 「アンドロイドにデータを載せているだけだから、触れられないのがな……」  基礎はあっても肉付けは映像みたいなもので、触れられない仕様になっていた。究極本物に近づけた、単なるデータの塊だ。  マコも自分の手を広げて動かしてみたりした後、近くにある窓に触れてみようとして、そのまま手が透けるのを何度も試していた。 「元には戻れないのね」 「長い事待ったが、そこまでは再現できなかったんだな」  悲しいわとマコが呟いた。  間宮は顔を背け「でも、痛みも感じないし、悪いことばかりじゃないさ」と、返した。マコがジッと間宮を見つめているのを感じ取っていたが、素知らぬふりをして窓へと歩み寄った。 「もうすぐ冬になる」 「金木犀の季節が大好きなのに、終わっちゃうのね」 「また来年見られるさ」  短い沈黙。会話が思うように弾まないのは、きっとまだ読みきれてないデータがあるからだろうし、間宮とて眠りから覚めたばかりで頭が上手いこと回っていない。少し時間が必要だ。 「ちょっと仮眠をとろう。君も休んだ方がいい。色々と整理されるだろうし」  言い終えてマコの方へと体を向けると、思いの外、刺すような鋭い視線に間宮はたじろいだ。それと同時に腹立たしく感じ、口を開く。 「なんだ。その反抗的な目は」 「思い出したの。支配したがるあなたの性質を」  幸福な時間が一気に弾けた。フワフワとしたシャボン玉が壊れた時のように、形を失った。 「せっかくやり直すために色々手を尽くしたというのに、なんだその言い草!」  つい怒りを抑えられずに唇を震わせると、マコは目を細めて薄く笑った。 「懐かしい。何もかも昔のまま」  いつからマコは人を見下した物言いをするようになったのか。そのあたりのデータは消去したはずだった。遡るのが甘かったらしい。死ぬ数年前よりもずっと以前からの記録を消しておくべきだった。しかしながらもう一度アンドロイドにデータを読み込ませるのをやり直すのはムリだ。リセットするのには更に金が必要だと説明されていた。 「そんなことない。俺は変わった。君も変わった。昔のままではない」  マコは再び手を見下ろして、指を曲げては伸ばしてみている。 「そうね、確かに変わったかも。少しばかり若返ったみたい」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加