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『人間を凌駕するアンドロイド』  キャッチコピーは大抵の場合大袈裟だが、間宮はこれが真実を謳っていると実感していた。確かに恐ろしいほどの速度でマコはマコらしくなり、読み込ませたはずのないデータまでそのAIに取り込んでいっていた。要するに教え込まれた内容ではなく、自分で学習しているのだ。  マコは本物のマコよりも、しばしば間宮を見ていた。目が合えばニッコリ微笑み、気の利いた一言二言を口にする。 「よく眠れたのね。顔色がいいわ」 「天気がいいからお散歩をしましょう」  夫婦なら当然でいて何気ない一言だ。それでも一度は妻を失った間宮からすれば、夢でもみているかのようだった。 「ずっとこういうのを求めてたんだよなぁ」  新生マコはそもそも間宮を怒らせることもほとんどない。きっと何で怒りにスイッチが入るのか、蓄積したデータで学んだのだろう。それに加え、新生マコになってからのデータを取り入れ、怒らせないよう回避する技も習得したらしかった。はなから感情のないアンドロイドだから、無意味な言い争いなど必要ないと判断したのかもしれない。  間宮は若返ったマコが日に日に愛おしくなっていき、それと共に後悔をするようにもなっていた。 「もう少し金を貯めて百年くらい寝ておくべきだったな」  コーヒーを啜りながら間宮が口走ると、マコも映像でしかないがマグカップを止めた。 「あら、なぜ?」 「さらに五十年待てば君に触れられたかもしれないだろ」  マコは息を吐くようにそっと笑った。 「欲張りだわ」 「そりゃ、触れたいだろ。マコは若くて美しいのだから」 「それって、私を抱きたいって意味ね」  空間に歪みが生じたような衝撃と共に、間宮は五十年前のあの日に引き戻されていた。
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