第14話 バックスの疑問(別視点)

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第14話 バックスの疑問(別視点)

「アウラ殿は頑張ってくださっているようだな」  バックスは、目の前にいる息子マーヴィに話しかけた。  ここは彼の自室。部屋には部屋主と息子しかいない。父親の言葉に、マーヴィは少し苦笑いを浮かべながら頷いた。 「ああ、そうですね。汚染の浄化も終わったのだからゆっくりするように言っているのに、毎日畑の様子を見に行っては人々と混じって農作業をしたり、神殿では人々の話を聞いたり、困りごとを魔法で解決しているようです」 「……アウラ殿が来てくださってから、領民たちの表情が以前よりもずっと明るくなっただけでなく、領地存続に関わる深刻な問題ですら、簡単に解決なさった。見たか、マーヴィ。この間収穫された作物の量を」  そう言われマーヴィは、先日行われた収穫を思い出した。  土地が痩せている可能性も考え、育ちやすい作物を植えたのだが、マーヴィの予想以上に作物が育ったため、街の住人たち総出で収穫を行ったのだ。 「そうですね。あまりの収穫量の多さに、皆が驚いていました」  倉庫に入りきらず山積みになっている作物を思い出し、マーヴィは苦笑した。  しかし父親の表情は厳しい。  喜ぶべきことなのに、何故そんな渋い顔をしているのだろうか。  バックスは思い詰めた表情で自身の手元を見つめながら、口を開いた。 「アウラ殿には大変感謝している。しているんだが……神官の力とは、あれほど強いものなのかと気になってな」  父親の言葉に、マーヴィは瞳を見開いた。同じ疑問が、自分の中にもずっとあったからだ。  とはいえマーヴィ自身、神官の力について良く知っているわけではない。  マーヴィの知る神官は先日戦いで亡くなった彼だけであり、この土地の人間らしく、良くも悪くも大らかな人物だった。  神聖魔法の力も、アウラほど強くはなかった記憶がある。  しかし、 「彼女自身、自分の力は大したことは無いとずっと言っていました。俺も神官の力についてよく知らなかったから、そういうものかと……」 「もちろん、わしだって神官様の力については詳しくはない。ただスティアの神官を基準に考えると、アウラ殿の力はその基準から外れたところにいるように思えてならないのだ。先日、魔獣討伐に向かう兵士たちに守護の神聖魔法をかけてくださったが、魔法をかける人数が多いから一日もたないとおっしゃった。わしの知ってる守護の神聖魔法の効果時間は数時間なんだが……」 「……そういえば俺一人にかけた時は、五日間もたないって言われたな」 「…………」  マーヴィの呟きに、バックスの口があんぐりと開いたままになった。が、すぐに口を閉じると立ち上がり、窓の方へと寄った。  そしてマーヴィを手招きすると窓の外――訓練場の端に作られた小さな畑を指さす。  緑が茂る中、ポツポツと白い蕾が見える。あの蕾が花開き、しばらく経てば実をつけるのを知っているのは、あの植物が先日大量に収穫した作物と同じ物だからだ。 「あんな所にも畑を作っていたのですか。実がなるには、もうしばらくかかりそうですね」 「そうだな。ちなみにあれは、この間収穫された作物と同じタイミングで育て始めたものだ」 「……はっ?」  父の言葉に、マーヴィは目下に広がる作物を二度見した。  どう見ても、魔王汚染されていた土地で育てた作物と、同じタイミングで育てたとは思えなかったからだ。  明らかに、こちらの方が成長が遅い。 「訓練場の畑の栄養があまりなかったんですかね。魔王汚染されていた土地の方が栄養があり、だから生育に差が出たとか」 「わしも最近までそう思っていたのだが……アウラ殿を見ていると、単純に土壌の違いでは説明出来ない気がしてきてな」 「そうは言っても、向こうの土地は魔王汚染を浄化しただけで、特別なことはしていないでしょう」  それも魔王汚染を浄化するのに使ったのは、解毒の神聖魔法だ。作物の育ちにまで影響を与えるようには思えなかった。 (それに浄化後の土に、他の畑との違いは無かったはず)  この手で、浄化された土を見たのだ。  間違いない。  しかし、父は思いも寄らぬことを指摘した。 「特別なことをしているだろ。豊穣の儀式を」 「しかし、あれはただの儀式。それに最後に使ったのは空間浄化の神聖魔法で病魔を祓う魔法ですよ? それが作物の育ちに影響してくるなんて思えません」 「分かっている、分かってるんだが……どうも引っかかるのだ」  バックスは立ち上がると、部屋の隅に置かれた銀色の大盾の前に立った。    マーヴィが魔王討伐の旅に出る際に持たせた、家宝の大盾。修理が終わり、バックスの元に返ってきたのだ。  太い指が、表面に彫られた盾と花の紋様――クレスセル家の家紋をなぞり、その下あるこぶし大のくぼみに触れる。  マーヴィと同じ黒い瞳が鋭くなる。 「アウラ殿は本当に、ただの神官なのか?」
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