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「ハルちゃんって、好きな子いるの?」
まだ暑さの残る高三の夏の終り、二学期が始まって少し経った頃。
同じクラス委員の坂下夏海が急にそんなことを言い出した。
「は? どうでもいいだろ、そんなん! つうか、ハルちゃんって呼ぶな」
「ええ? じゃあ晴彦クンって呼んでもいいの?」
「田村でいいって言ってんじゃん!」
「やだよ、田村じゃ何か面白くないもん、やっぱハルちゃんにしよっと」
許可していないのに、俺の名前をチャン付けで呼ぶのはクラスの中でナツだけだ。
三年になり、クラス委員会で遅くなった日の帰り道が一緒になるのは、これで三度目。
その度に少しずつ距離が縮まって、彼女のことをわかってきた気がしていた。
坂下夏海はクラスの中でも目立つ存在だった。
誰とでも打ち解けて、親しみやすくて、とにかくクラスの中では一番明るくて笑顔がヒマワリみたいだってこと。
イタズラ好きで、どっちかというと真面目で引っ込み思案な俺にまでちょっかいをかけてくるような風変わりな女子。
わかった気でいたし慣れたと思ってたんだけどな?
「ね――ってば! ハルちゃんの好きな子、教えてよ――!」
「しつこいな、イヤだって」
なんでよ、私とハルちゃんの仲なのに、とナツは口を尖らしていた。
いや、怒る必要ある? 俺の気持ち考えたことある?
ちょっと、今泣きてえし。
なんで好きな女にこんなこと聞かれなきゃならないんだよ。
ああ、わかった。
俺の中に今新しく坂下夏海という人間に対し理解したこと。
『デリカシー』とか『デリケート』とか、そういったどちらかというとネガティブな感情に、疎い人間なのかもしれない。
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