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「なしてよ? したって今日来るなんて誰も」
七年ぶりだっていうのに、俺の口から出た言葉の不器用さに自分でガッカリする。
いつか、会えたならば。
なんどかシュミレーションし描いてきた理想とは、ほど遠い再会に内心焦りながらも、必死にポーカーフェイスを装う。
「久しぶりだね、元気にしてた? ハルちゃん」
黒いショルダーバッグから、ハンカチを出したナツが背伸びをして俺の額をぬぐう。
「おい、汗だから! 雪でねえからな」
汚いぞと伝えても構わず俺の汗を拭いたナツが、あの頃のようにエクボの出る笑顔で見上げている。
「優香がさ、同窓会のこと教えてくれたんだわ」
「優香って、加藤優香? そういえば、ナツと一番仲良かったもんな。連絡取ってたんだ」
「うん、優香とだけはね」
へへっと笑うナツに少しだけムッとした。
なんだよ、別に俺とも連絡取れよとは言わないけどよ?
「ハルちゃんも遅れてきたの?」
「うん、ちょっとな残業」
「農協だよね? まだ働いてんの?」
「んだって、隣町だけどな」
「家から通ってんの?」
「面倒くさくて一人暮らししてら」
「え? 本当に一人暮らし?」
ニヤリと笑うナツに、さらにムカつく。
「いねえわ、彼女なんか」
高校卒業してからずっと、誰かさんのせいで恋愛なんかできなかったっての!
「やだ、ハルちゃんってばいい男なのにね?」
へえ? いい男を振る人が何を言ってるんですかね?
そのジリジリとした思いを封印し、ナツの頭に積もる雪を払う。
どう見たって防寒用じゃないコートに、滑りそうなブーツ。
雪国なめんなの大人都会派スタイルでやってきたナツになんとなくガッカリした。
だって、そうだろ?
雪国育ちの人間なら、もう少し寒さ対策をしてくるだろうに、七年の東京での生活でそんなことも忘れてしまったのか。
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