43人が本棚に入れています
本棚に追加
十二月二十三日。
今年のイブイブは、金曜のせいか、妙に周りが浮足立っている。
街中にジングルベルが陽気に流れ、大通りではプレゼントの袋を持つ家族連れや、仲良く手をつなぎ寄り添うカップルを見かけた。
いつもより人が多い通りを抜け、残業で遅くなり息を切らして駆けつけた居酒屋の前。
扉の向こうでは、今まさに『乾杯』の掛け声とそれに応える大勢の声、そしてビールジョッキを合わせているだろう音まで聞こえてきて脱力して足を止めた。
チッ、なんだよ、なんだよ!
もうちょい待っててくれてもいいんじゃねえの?
元・北西高校三年四組の面々よ‼
五分くらい遅れるかもと連絡した俺に『わかった』と返事をした親友高橋の返事。
それは多分『わかった、先にやってるね』だったんだろうな。
ため息をつきながら、肩に積もっていたぼた雪を振り払いながら恨めし気に空を見上げる。
外灯の下、水気の多いぼた雪がふわりと落ちては顔を濡らす。
ついたため息は煙突の煙みたいに白くそよぎ、鼻柱まで凍みていくような寒さにブルッと背中を震わせてから、ヨシッと気を取り直す。
高校卒業以来、七年ぶりに会うメンツだっているはずだ。
地元に残ったヤツら以外と飲むのも初めてのこと。
とっとと入って乾杯しまくって、今日は朝まで飲んでやる、そう思い扉に手を伸ばしたところで。
「だ――れだ?」
「なまら冷たいてば‼」
俺の目を後ろから覆う氷のような手に、悲鳴を上げかけると。
「しゃっけえ、だって。久しぶりに聞いた」
クスクスと笑うその手の主の声に聞き覚えがあった。
冷たいその手の感触や、この行動にも懐かしさを感じ、胸の奥でドクンと期待しているように心臓が早鳴っている。
まさか、だよな?
だって、誰も連絡先知らないって……、だけど。
「……ナツ、か?」
「さあ、どうでしょ?」
ようやく目隠しを解いてくれた手の主を振り返る。
卒業式の日、手を振って別れた坂下夏海が、七年ぶりにこの町にいた。
幻なんかじゃなく、目の前にいることに驚きをかくせなかった。
最初のコメントを投稿しよう!