しおりちゃんには、大好きな人がいる。

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『その方が都合がいいから。それに尽きる』 「つ、都合がいいからって」 『同性愛者は現在人口の一割程度とされている。つまり、異性愛者の方が圧倒的多数なんだ。この世は多数決なんだよ。多数、あるいは強者にとって都合が良いようにルールってのは作られる。“残り一割の人がおかしい”ということにしておけば、相対的に“自分達は正しい”ということになって安心できる。だから、それを常識ってことにして、残り一割の人に押し付けるわけだ。理屈もわからないのにね。……僕と君はね、幸運だと思わないといけないんだよ。“運よく”九割の側にいられて、夫婦になることができたんだから』  なんて身も蓋もない。反論しようとして、私は何も言えなくなった。  自分達が多数派だから、正しいということになった。それを常識で、法律ということにした。――どこかで納得してしまった自分がいたがゆえに。 『水穂(みずほ)。……厳しいことを言うようだけど君は、本当に汐里のために“誤解を解いてあげよう”としたわけじゃないよね?ただ、自分の常識の外にある行動を娘がしようとしたから、それがどうして駄目かもわからないのにストップをかけようとした。理解が出来ない行動を恐れた。……自分が迷惑だから止めようとした、それだけだろう』 「わ、私は!本当に汐里が嫌な思いをしたら駄目だと思って……!」 『少なくとも今、汐里は薫子ちゃんに“夫婦になりたい”と言われて迷惑ではなかったし、嬉しいと言っていたんだろう?嬉しいということは、幸せということ。どうしてその幸せを君は否定するんだい?……本当に娘のことを想うなら、自分が多少不快に感じることであっても……受け入れてあげるのが親なんじゃないかな』 「でも、でも……!」  ニュースで見るたび、どこか他人事だった。レズやゲイの人が、結婚を認めて欲しいと言った時。同性愛者なんだからひっそりと一緒に暮らしていればいいのになんで権利を主張するんだろうと呆れた程度。彼等彼女らがなんで夫婦になりたがっているのか、その理由を考えようとはしなかった。否、理解を拒否した。  自分とは遠い世界だから。関係ないから。嫌いだから。  本当は――それらの世界は、ごくごいく身近にあってもおかしくないもののはずなのに。 「でも、もし本当にあの子が同性愛者なら苦労するじゃない。苦しむじゃない。そんなの可哀想じゃない……!」  思わず訴えると、それが違う、と彼は続けた。
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