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二
「『世相科』の如月さんね?」
白衣を着た早岡早苗は、報告書を受け取りに来た如月を『世相科』といったが、これは別の呼び方である。
「『次世代犯罪対策本部』が正式名称です」
厳密には、時代に順応した犯罪者を相手に捜査する特殊チームのような部署だと如月は言い返した。
「チーフの花村さんの指示で来た訳か、司法解剖の報告書のコピーとるけど、何が知りたいのかしら」
「咀嚼痕です」
「なるほど、如月さんは食事は済ませたの? まだなら済ませた後でもいいけど」
これから話すことは食欲がなくなる危険があるので、先に済ませたほうがいいと早岡は提案するが如月は「簡易的ですが済ませました」と即答で返した。
カニバリズムを孕んだ事件というだけでも食欲はなくなる話だが、何か腹に入れておかないと捜査は出来ない。
「そう、咀嚼痕は歯並びはいいみたい、咬合力もなかなかある。焼かれていないレア肉を歯で引きちぎるのは相当顎の力が必要なのよ」
「入れ歯をしていない、二三十代の人間、性別は男性でしょうか」
「そうね入れ歯やポリグリップをしていても固いものは歯茎と顎に負担がかかってしまう。最近は女性でも咬合力強い人はいるけど」
「どんな人ですか?」
「モッパンってご存知かしら。大量の食事を咀嚼して、その咀嚼音を聞かせる、睡眠導入用の動画を投稿する人たち」
「それ、見た事あります。美人の韓国人女性がよくやってる動画ですよね」
「医者の視点からすると、ああいう暴飲暴食は成人病や内臓の病気を引き起こす原因になるから賛成出来ないけど、誰を撮るかで商品の売り上げが左右するのも興味深いわね」
「去年からビーガン、完全菜食者も話題になるほか代替肉が出回ってて普通のお肉も伸び悩んでますしね。あ、報告書ありがとうございました」
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