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出会い
人生はままならない。
ホントに。
不公平だ。
産まれた時からすべてを手にしているαたちが羨ましい。
平凡だけど自由で自分たちの思うように生きられるβに憧れる。
なぜ僕はΩなのでしょう!
ホワイ!
神様、テルミー!
僕はαに産まれてウハウハ人生が良かった。
ずるくない?
しかも僕の運命の番が糞だった。
せめてもっと良いのにしてよぉ!!
オメガの最後の希望じゃん!
しかも男!
なんで運命の番、男!!
そして最低なおっさん!
ぼいーんな美女無理なら、せめて美しい青年でしょ!!
何でおっさん!
もっかい聞きたい、ホワーイ神様!!
この僕の部屋に、勝手に上がり込んでカップ焼きそば特盛を食べるαと出会ったのは半年前。
僕はオメガの雇用を守る、オメガ枠で食品工場の採用に受かり、この春からこの街で一人暮らしを始めたんだ。世界は捨てたものじゃないと喜び、超大好きなアイドルの写真集を買いに行った時だった。
車道に飛び出した子猫。
迫りくるトラック。
うわぁ!!危ない!
と、もちろん僕の反射神経とミジンコのような心では、助けに行く事など出来ず、その場に固まってしまった。
だが子猫は助かった。
トラックは子猫の目前でギリギリ停車できたのだ。
子猫は轢かれる事なく一目散に逃げて行った。
ナイスだ、トラックの運ちゃん。
工事現場でよく見る色んなものが積載できそうなヤツだ。働く車に興味のない僕には名前は分からない。
見上げると、頭に薄汚れたタオルを巻いてハンドルを握るおっさんがいた。
時が止まる。
お互いに目を見開き見つめ合う。
嘘……これって運命の番!?
やだ!やだ!
だって凄い小汚いおっさんじゃん!
え?うそあれはαじゃないでしょう!
髭ザリザリに生えてるし、日焼けと汚れで顔真っ黒だし!
何より、僕高校出たての19歳だよ!
おっさんいくつだよ!
僕の事を見つめるおっさんがトラックから下りてきた。
でかっ!おっさんでかい!
しかも土木作業員らしく、使ってます的な飾りじゃない筋肉モリモリ。
春なのにタンクトップ!そして汚れてる。
「おい、お前」
おっさんが、近づく。
のおおおお!
チェーンジ!
運命の番チェンジ!!
女の子!
せめて綺麗な、The、アルファな感じの青年にぃぃ。
僕、Theオメガな感じだよ。
キャシャーンな体に伸びなかった背。
栗色の柔らかい髪にアーモンドな大きな目。
αの綺麗な女性に飼われたかった!
給料少ないけど頑張って働くし、家事も得意だし!
「おっさんはお断りします!」
僕は全力で逃げ出した。
よし、もう会う事も無いだろう。
そう思った。
しかし運命の強制力は強かった。
次の日、食材を買いにスーパーへ向かうと、パチンコ店の前には開店をまつ人々の行列があった。
僕、たばこもうるさい所も嫌いだから縁がない所なんだよねと見るともなしに見て通り過ぎようとしたら…
居た、昨日のおっさんが。
その列にビール片手に作業着で。
ツッコミどころが多すぎる。
作業着って事は仕事中に飲酒にパチンコ!?
おおい!!
しょうもない大人代表!?
「あっ、お前、昨日は…」
相手が僕に気がついた。
僕は全速力で走り出した。
危なかった、あんなおっさんと番になったりしたら人生は終わりだ。
きっと殴られて酒とか買いに行かされて、金がなくなるとオメガの風俗店で働かされるんだ!?
僕は必死に家に逃げ帰った。
そして、次の週末の事だった。
ピンポーンという音が僕のアパートに響く。
きっと注文しておいたカラーボックスだ。
僕は何の疑いも無くドアを開けた。
「よお!」
そこに居たのは爽やかな配達のお兄さんでは無く、運命のおっさんだった。はだけたつなぎ姿の。
僕は半開きにしたドアを閉めようと思いっきり引いた。
けれど、おっさんの力で阻まれて閉まらない。
「どちら様か分かりませんがお帰りください!!」
「なんだよぉ、俺たち運命のつがいだろう」
ドアが閉まらない!!
おっさんがドアの中に立つ。
「お邪魔しますぅ」
おっさんがサンダルを脱ぎ捨ててあがりこむ。
ズカズカと狭い部屋を進み、テーブルの前に座る。
ガサっとビニール袋をテーブルの上に置いた。
「とりあえず適当に買ってきたけど好きなの取れよ」
ビールにコーラ、お茶とミルクティー、裂きイカ、せんべい、アメリカンドック、チョコ。
「パーティーだなこれ。あっ若い奴はパーリーっていうのか?」
プシュっとビールを開けたおっさん。
くつろいでる。
名前も知らないおっさんが僕の家で勝手に寛いでいる。
「ちょっと、何なんですか!?誰なんですか!」
僕は、おっさんのビールを取り上げてテーブルに置いた。
マイペースが過ぎる!
「え?俺か、運命の番の佐藤三郎太だ」
サトウ サブロウタ……
嘘だろ!?
えっ?αの名前!?
サブロウタ?
「言っておくが本名だぜ」
おっさんがつなぎをあさりボロボロの財布を出して、労働安全衛生法がなんちゃらという免許証を出した。
佐藤三郎太だ。
「……佐藤さん何の用ですか?」
「あっ?サブちゃんって呼べよ。」
免許証がレシートで一杯の財布に入らず、レシートを人の家のゴミ箱に捨てる。
「佐藤さん、お帰り下さい」
ドアを指さして言った。
「なんだよ親睦を深めようぜ!千歳」
「なんで名前知ってるんですか!?」
そもそも、どうやって僕の家を調べたんだ?
「このまえこっそりついて行ったんだぜ。郵便物を1つ拝借して調べた。名前と住所がわかりゃもう何でも分かる。石川 千歳 αの兄2人が居て、春から新社会人。いやぁフレッシュだねぇ」
再びビールを煽る佐藤。
裂きイカの袋を開けようとして爆発する。
家が荒らされていく…。
「通報しますよ!」
「なにカリカリしてんだ?もうすぐヒートか?そりゃ好都合だ!運命の番の役目をしっかり果たさなきゃなぁ!」
「僕は、絶対に貴方とは番になりません!!」
と男を追い出したが、男は数日おきにやってきた。
いつの間にか合鍵も作られ、勝手に上がり込まれるようになって半年。
帰れ帰れというものの、佐藤の居る日常になれてきた。
カップ焼きそばで満腹になって寝ている佐藤を蹴ってどかす。
大好きなアイドルの動画を漁る。
「可愛い。尊い!」
揺れる黒いポニーテール。
はじける笑顔。
キュンキュンだ。
この小汚いおっさんとは正反対だ。
ちらっと佐藤を見る。
僕の狭い部屋を足のふみ場をなくす程の大きな体。
真っ黒に日焼けしている。
もう10月だけど、つなぎにTシャツで汗をかいている。
袖から見える筋肉。
この半年、僕たちは番にもなっていないし、セックスもしていない。
なぜだ!?
いや、良いんだ。
でも運命の番を前にして半年も手を出さないのはなぜだ!
僕の魅力が足らないのか!?
佐藤は見た目肉食で実は絶食系なのか!?
なんで僕は、こんなに苛ついているんだ?
「全部コイツのせいだ……」
眠る佐藤を睨む。
型枠解体という、まったくもって謎の仕事について親方している佐藤。
土木に偏見があるわけじゃないが、僕の貧困なイメージでは、αは丸の内とかニューヨークで100万くらいのスーツ着て働いているものだ。
兄たちがそうであるように……。
佐藤の服はワークメンだ。
値段を聞いて驚いた!僕でも買える!
この前誕生日には、ホームセンターで
自転車を贈られた。
「おまえ、欲しがってただろ」
って。
外食はいつも焼き肉だ……。
なんという庶民派α。
「はぁ…」
兄たちを見て、αのイメージが固まりすぎていた。
反省だ。
でも何故手を出さない!
正直言って僕は、もうちょっと佐藤に抱かれて良いと思っている。
番は踏み切れないけど…。
暴力はふるわないし、超マメに会いに来るし、何より気楽だ。
僕の可愛さの前に遠慮してるのか?
これは僕からちょっとアクセスしたほうがいいのかな?
アイドルの動画を止めて、ゴクリとつばを飲んだ。
佐藤のズボンの股間部分に目をやる。
いつも仕事帰りにうちによると勝手にシャワーを使ってパンイチで出てくる。
佐藤の佐藤は大きい。
僕は、自分のお尻が心配で、いわゆるローションを買ってみた。
「佐藤に塗ってみようかな…」
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