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奴が来ない
佐藤に送り届けられて、航助兄さんのお家に泊まった。
朝になって兄さんと朝食を食べているのだけど、やたら固くてガスガスした体に良いパンが出てきた。
美味しいけど、やっぱりふわふわが好き。
つくづく庶民だなぁと思う。
「航助兄さん。ビックリしないで聞いてね……佐藤って…大きな佐藤建設って会社の社長らしいんだ…」
「はぁ??」
兄さんのコーヒーを飲む手が止まった。
凛々しい眉が顰められた。
「だよね!?信じられないよねー。僕もまだ信じられないよ!でも本当みたいなんだよ…」
最初のガテンの印象が強すぎて。
兄さんがカップをソーサーの上に置いた。
「千歳、今更何言っているんだ?」
「え!?」
「はじめて会った日に聞いたぞ。」
またやってしまった…。
僕だけ大分間違っていたやつだ…
「それにしても、宝石泥棒のせいで会見が中止になるなんて、お前は本当に、普通で居られないよな…」
航助兄さんが、笑いながら、スムージーを勧めてくれる。
いや、美味しいし体に良いけど…僕、イチゴオレとかでいいんだけどな…
実家では美容と健康に五月蠅い母さんが居て、忙しいからって僕が母に決められたメニューを作っていたけど…僕はもっとチープな食べ物が食べたかった。
10品目のサラダより、只のゆで卵がいいし、魚介と野菜たっぷりのアクアパッツァよりも塩鮭がいい。
カップラーメンも食べたかった。
その為に家を出たかったというのもある…。
まぁ、おかげで思春期にニキビ一つもなかったし、今でもお肌つるつるだけどさ。
「僕のせいじゃないよ。佐藤がモテるのが悪い」
「まぁ、あの佐藤三郎太だからな…おっ?来るんじゃないか?」
テーブルの上に置いている僕のスマホが着信を知らせている。
指輪を返してきてくれるっていってたけど、ちゃんと解決したのかな?
さすが、佐藤。頼りになる。
「今日からお前も佐藤になるのかぁ…ちょっと寂しいな」
そうか…僕、婚姻届を出したら、佐藤千歳かぁ。
なんか、変な感じ。
徹夜明けの佐藤と区役所に向かった。
良い夫婦の日ということで、そこそこ多くの男女がいた。
さすがに男性Ωは見当たらなかったけど…。男性Ω人口少ないもんね。
佐藤はいつの間にか作業着に着替えていたので、周りに騒がれることもなかった。
書類に不備もなく、記念品とか貰って正直あっさりといった印象で終わってしまった。
佐藤のマンションに帰って来て、二人でソファに並んでまったりお茶を飲んでいる。
「これから、末永くよろしくな千歳」
佐藤が僕の頬にキスをした。
あ…甘い!!
恥ずかしくてムズムズする。
「……よろしく、佐藤……じゃないか…三郎太……あああ!!駄目!まだ恥ずかしいから、しばらくは佐藤で!!」
恥ずかしすぎて、佐藤の腕の中に飛び込んで、口に噛みつくようにキスをした。
佐藤が僕の事を優しく抱きしめながら、キスに応える。
ああぁああ!!
もう!!
好きすぎて叫びたい!
佐藤のくせに!!
そんなこんなで、ついに結婚した僕らは…いよいよ番になるわけだけど…。
番になるにはαがΩの項を噛む。
それはヒートの時に噛んだ方が、体内のホルモン値的に成立しやすいらしい。
特に男Ωの場合は、ヒートの時が推奨されている。
そろそろなんだよ…。
一日、二日ずれる事はあるけど…
もーーーー!!!
なんで来ないのヒート!!
今月飲んでないよ、発情抑制剤。
もう予定より3週間遅れている。
そろそろクリスマス来ちゃうよ。
11月でアパートも引き払って、佐藤のマンションに転がりこんだし…。
なのに何で来ないの、ヒートの馬鹿!!
よんでないときはノコノコやってくるくせに…。
「楽しみが少し延びたな」
と佐藤は優しく笑ってくれているけど、僕は早く番になりたいし、ちゃんとセックスしたい!
佐藤が素股王になる前に。
「石川君、最近元気ないわね。結婚してガテンの旦那様とラブラブ新婚生活じゃないの?」
おなじみの休憩室で富山さんと、細川さんに囲まれた。
職場には結婚は報告しているけど、石川で通して貰っている。
富山さんへはエンペラーの写真を送ったけど、富山さんは、もっとちゃんと撮れている写真を持っていた。
何故…と聞くと、芸能プロダクションの平家さんが公式に販売しているらしい。
もちろん、全種類コンプリートしましたよ!
本当のファンなら推しの写真を怪しい業者から買っちゃ駄目よ、と言われてしまった。
「それが…ヒートが来なくて、結婚したけど、まだ番になっていないんです…」
「まぁ!そうなの!?」
何故か、二人とも俄然テンションが上がっている気がする…
「それは、もう、あれね、禁断の発情誘発剤を手に入れるしかないわよ!!」
「そして…ふふふふ!!二人の燃え上がる夜!」
なに、それ…
超あやしい薬じゃないですか…
本当にあるのその薬!
「そんなもの何処で売っているんですか?」
「そうねぇ、物語では大体怪しい金持ちとかが持っているわよね」
富山さんが頬に手を当てながら答えた。
怪しい金持ち??
金持ちで怪しい…といえば
早瀬さん!!
もってる!なんだか、絶対に持っている気がする。
しかも何か書類に一杯サインしなきゃならないらしくて、丁度呼び出されてるんだよね。
よし…今日突撃して行ってみよう!
発情誘発剤を手に入れて、佐藤をびっくりさせるんだ。
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