俺の嫁の兄達

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俺の嫁の兄達

チャイムが鳴り、招き入れられたのは千歳ではなく、もう一人の千歳兄だった。 千歳の8歳上の出雲だ。 外資系証券会社の大手、シルバーマン・ソックスに務めるバリバリのエリートα様。 確か彼は今、ニューヨークに勤務しているはずだったが…。 やはりこの兄もやや色素の薄い栗毛の髪で、耳にかからない程度に品良く整えられている。綺麗な男だ。 彼はこの部屋に入ってくると、きっちり靴をそろえ、手を洗い、弟にお茶を要求して、ソファに座った。 俺も、よくマイペースだと言われるが、この兄も相当自分のペースで生きているように思える。 「で、航助。うちの千歳についた悪い虫とはその男か?」 悪い虫…。 否定は出来ないが…そうだよな…千歳よりも、千歳の親の方が年齢近いしな。 兄にお茶を入れた航助が戻ってきた。 「ああ、兄さん。ヤクザもので密入国の斡旋をしているみたいだよ」 「それは誤解だ!」 立ち上がろうとしたら、出雲に目で制され再び正座に戻る。 「今も怪しい電話がかかってきていた。」 確かに凄いタイミングだったが、あれは決して怪しい電話では無い! 日本国籍を取得した人間の話だ! 「決して怪しい電話では無いです!俺は普通の社会人のおっさんだ!」 だんだん口調が畏まらなくなってきてしまった…。 「そうか、千歳のメールでも、やれ高い車を買って貰った、パソコンをかって貰った、終いには先日送られてきた婚約指輪の画像を見たが…あれは1000万はするだろう……ふつうのおっさんが買うものではない」 車は買ってない。いや、別に必要なら買ってもいいが、あいつ免許取るつもり無いぞ。 座学が大っ嫌いだからな。買ったのは自転車だ! そもそも千歳が出かけるなら俺が運転するぞ。 普通車でも大型でもクレーンでも船舶でもヘリでも、大概の乗り物なら運転できるぞ! 「…一応建設会社経営しているんで……多少は…でも、誓って法は犯してないです」 「何て会社だ?」 出雲に聞かれる。 「佐藤建設です」 一応、大手ゼネコンだし!これで俺の社会的信頼は取り戻される! 長かった。正座がしびれてきたぜ。 「ふぅん」 「……」 これは…あれだ。佐藤の呪いだ。 一般的な名前過ぎて、俺の会社が、俺に結びつく人間がゼロだ。 絶対そこらへんの中小企業だと思われている…。 普段ならそれでいいし、現場で働くのにはとてもやりやすいが、まさかこんな時に役に立たないとは…。 何か身分を証明するものは…。 「年収は?千歳と子供を養えるだけ稼いでいるのか?」 「…年収…いくらだったか……全部合わせると、2…いや3億くらいか?」 人任せにしているし、実際、解体業の給料くらいしか使わないから知らない。 正直、貯まる一方で…妙な慈善団体とかの勧誘がウザい。 いっそパーッと使おうとおもって、現場の人間に使いまくったが全然減らないし、良い人材が集まってきて、結局利益が上がった。 これからは千歳に散財したいが、あいつの財布の紐は固い。 ちょいちょい普通に見える高性能のものに変えている。 「はぁ!?お前はどこの組の組長なんだ!?そんなに儲かるのか?」 航助から怒りが伝わってくる。 「組?いや、だから!やくざじゃねぇ!佐藤建設だ!あのビルもタワーも、あっちのマンションもウチの会社が手がけたものだ」 マンションの窓から見える景色を指さす。 ちなみに、その基礎のコンクリの型枠解体したのは実際に俺だ。 「嘘をつくな」 「嘘じゃねぇ!」 航助がスマホをトトトと弄っている。 ぜひ調べてくれ、俺の潔白を証明してくれ! 「……兄さん、嘘だよ。社長の写真のっているけど別人だ」 「何だと!?」 俺の会社はいつ乗っ取られたんだ!? まさか、早瀬…お前か??  航助が出雲にスマホの写真を見せる。 それは俺だった。 なんだよ、びっくりしたじゃねぇか。 ちょとスタイリストに色々整えられて、畏まってスーツなんて着ているが、そっくりそのまま俺じゃねぇか。 「別人だな。なぜそんな下らない嘘をついた?」 「いや、俺だ!それ俺だ!現場出てないときの写真だから日焼けしてねぇけど、おんなじ顔しているだろう?」 二人がスマホと俺の顔を見比べている。 なぜかドキドキする。 「似ているけど……あやしい。そもそも、佐藤建設の社長がお前なわけがない。あの佐藤建設だぞ」 航助が褒めてくれているのか、貶しているのか…。 「…しかし、よく見れば似ていなく無い。この体格も中々居ないだろう…それに、佐藤は多いが、佐藤三郎太は多くない…」 おっ…信じて貰えそうか!?皮肉にも三郎太のおかげで。 「お前は…ヤクザじゃなくて、本当にこの佐藤三郎太なのか?」 「ああ、間違いない。俺は真っ当な社会人だ。だから、千歳との結婚を認めて欲しい!」 二人が押し黙って俺を見ている。 お?後一押しくらいか?? 「何よりも千歳の事を一番に考える。アイツには俺だって幸せになって欲しい。過ごしたのはまだ半年だが、あんたたちと同じで千歳を愛しているんだ!弟さんを俺に下さい!」 ガバッと土下座をした。 「…佐藤」 「…三郎太」 そこは別々に言わないで欲しいぜ…
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