二十一話 キャラへのおもい。

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二十一話 キャラへのおもい。

「はい、ありがとうございました! アニメをリスペクトした、素晴らしいパフォーマンスに、 もう一度大きな拍手をお願いいたします!」 司会者がそうアナウンスすると盛大な拍手が、 息切れしてハアハアしている自分の耳にもしっかりと届いた。 …いつも、コスプレイベントには参加しても こういうステージに上がったり…っていうことはしなかったから、 ちょっと新鮮だ。 「パフォーマンスを終えていかがですか?」 司会者が僕にマイクを向けてそう尋ねる。 そうだった、このイベント終わったあとちょっとしたインタビューがあるんだった。 「あ…えっと…」 言葉が出てこない…あれ…おかしいな… アイドルのコスプレしてるのに…芸能人てこういうのスラスラ喋れるもんなんじゃないの? 歌の時みたいに、全然うまく… あぁ、そうだった………正樹こういうの苦手なキャラだった。 キャラの能力を使えるってだけなんだから、キャラにできないことはできないよな。 仕方ない、この質問には自力で答えるか。 「すごく疲れたけど、楽しめました。」 とりあえず並の返答をした。 そしてそのあと軽い質問をいくつか受け 「どうして、このキャラのコスプレをしようと思ったんですか?」 と、本題の質問が飛んできた。 「それは…」 コスプレして、正樹の力使って持てたかったからです…。 とはいえない。 レベル100にして、リベルダを自由にするのを手伝ってる… って話をしても信じてもらえない。 本当の話がこういう場では一番面白くない。 一応エントリーシートには軽く書いたことを言えばいい。 「えっと…、実は『レジェンド・シンガー』は最近一気見したので、作品を知ってから日が浅いんですけど…『正樹』のこと、すごくリスペクトしてるのでコスプレしてみました。」 「どんなところをリスペクトしているんですか?」 「それは、ライブシーンがすごく良くて…あんな風…に………」 嘘ではない。 このフェスのエントリーシートを書いたときは本当にそうだった。 このシート描いてる時点では、まだそこまでじゃなくて あんなふうに自分も踊れたらな…と思って書いた。 でも…今は………。 「それだけじゃなくて。 正樹は…すごく…辛い境遇にいるはずなのに、ステージではお客さんに希望を与えてて… でも、自分のこと卑下しないで自分の力で未来を切り開こうとしてる姿勢が…」 以前の僕なら、もっと捻くれてみていただろう。 現実味がないって、視聴者に甘い夢を見せるための幻想だって。 実際そうだろう。 でも、例えそうでも…学びはある気がした。 「すごくリスペクトできます。」 質問に対してそう返事をすると、拍手が起こった。 この拍手の意味は、よくはわからなかった。 でも理解するより前に 「なるほど、ありがとうございました! それでは次の方へ参りましょう!」 その司会者から挨拶によって、自分の出番の終わりの合図を送られた。 舞台からそそくさと退場した。
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