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九話 一部でも魔力発揮
数日後、体育の時間。
校庭に笛の音が響き渡り、その音とともにスタートラインに並んだ第一走者達は走り出す。
そう、本日の授業メニューは、昨日同様リレーである。
チームは4つ。
何人かにバトンが回っていったが、自分のチームはかなりの大差で負けていた。
普段はこんなに大差がつくことがないのだが、途中で足がもつれて転んだやつがいたため、こうなった。
当然、このような状況が面白いと思うチームメイトは少なくない。
「うわ…負けてんじゃん、しかも次もやしとか。」
「昨日あいつのせいで負けたのに…お荷物抱えるとか勘弁だわー」
あからさまに嫌そうな視線を向けてくるチームメイト。
「もやし相手なら楽勝」
「一周差つけてやろうぜ」
と、いきり立つ不良たち。
僕はため息をつく。
リレーは好きじゃない。
だって、万一にでも負けることがあれば…
全ての責任は足の遅い自分の責任にされるのなら。
だから、リレーは嫌いだ。
いつもの僕ならね。
「もやし、今日は頼むぞ、まじで。」
まもなく自分の順番が回ってきそうな僕に、
そう嫌味で見送られながら所定の位置につく。
相変わらず自分のチームは、絶望したかのように目を両手で覆っていた。
そして、この後の走者たちが、この差をどう埋めるかの作戦会議を始めていた。
誰も僕に期待をしていない。
思ってた以上に好条件が揃っている。
今日ほど見返すのに最適な日はない。
僕は前の走者からバトンを受け取ったその瞬間…猛スピードで走り出した。
あまりのスピードに、砂埃が舞うほどだ。
その様子に、さっきまで相談してたり、諦めてこの勝負に興味を見出さなかった校庭中の生徒が、目を見開き、唖然としたようにポカーンと口を開けながらこちらの様子を見た。
「おい、あれ…本当にもやしか?」
「嘘だろ、あいつ…あんなに早かったか?」
次第に口々にそう言い合う生徒。
自分自身、思っていた以上の効果が発揮され驚いていた。
とはいえ驚いているばかりもいられないので、とにかく足を動かす。
そのせいかもあって数秒後、
僕の目の前にはあんなに離れていた別チームの走者の背中が見えてきた。
「おい、段々他のチームと距離近づいてきたぞ!」
「いけ!その調子だ!一気に抜いてやれ!」
「おいおい、嘘だろ!もやしなんかに抜かれんなよ!」
その頃になると、外野もうるさくなる。
それはそうだろう。
もう、ほぼ勝負は決まったようなこの現状で、
運動神経のトロイ僕が、かなりの距離の空いた差を猛スピードで距離を詰めて
もう前走者を抜かそうとしているのだから。
白熱しないわけがない。
そして、半周したところでついに目の前の走者を抜いた。
「よっしゃ!あいつ抜いたぞ!」
「その調子でいけ!」
「絶対抜かれんじゃねーぞ!振り返らず走れ!」
さらに外野は盛り上がる。
僕はとにかく足を動かす。
自分と3人目の間にはかなりの間が空いていたので、追いつくまでに半周かかったけど、ここから先はほとんど差がない。
今の自分ならこのくらい余裕で抜かせる!
その差はあっという間に埋まり、2人目を余裕で抜き
残るはトップを走る、僕を馬鹿にしてきたあの不良のみとなった。
「うわ、なんでもやしのくせにそんなに足早いんだよ!」
焦る不良
当たり前だが、そんな不良に返事をする義務はない。
僕はとにかく足を動かし、あいつを抜くことだけを考えた。
その甲斐あって、残り1/4のところでついに不良を抜き
そのまま大差をつけて次の走者にバトンを渡した。
そして、その順位を保ったまま
自分のチームが一位という結果で終わった。
その後
「お前すごいな!」
「この前の授業までトロかったのに、どうやってこの数日で足早くなったんだよ!」
「今日の功労者はもやしだな!」
こんな感じで囃し立てられ、終いには胴上げをされ、
2位とはいえ大差で負けた不良は
「昨日までとろかったやつが、何で急に足早くなってんだよ!」
と言って、地面を思いっきり蹴って、かなりのご立腹だった。
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