十九話 アニソンフェス

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十九話 アニソンフェス

そして、時間はあっという間に流れ、アニソンフェス本番当日の土曜日。 司会者・出演者はもちろん、会場にも気合を入れたコスプレイヤーが集まっていた。 「ということで『エントリーナンバー13:仮面マスク』さんのパフォーマンスでした!皆様、もう一度大きな拍手をお願いいたします!」 会場中は盛大な拍手で盛り上がっていた。 それもそうだろう。 今ステージでパフォーマンスをしたのは、特撮ヒーローのコスプレをしていて、 幅広いファンがいるそのキャラで、アクションを織り交ぜていた。 盛り上がりは今日一番だ。 「すごいな…」 出番を控えた僕が、舞台袖に控えてそう呟くと 「しんじ、大丈夫? 特に練習とかしてないけど。」 ポケットの中に入れたスマホから、リベルダの声が聞こえた。 出番前にスマホを取り出すのはなんなので、そのまま小声で返事を返す。 確かに、今日まで僕がやったことはアニメのライブシーンをひたすら繰り返しみただけだ。 「コスプレしたら、そのキャラの能力が使えるんでしょ? だったら緊張する必要ないと思うけど?」 「そうだけど…気持ちや言動までキャラになるわけじゃないし」 「え?そうなの?」 「今までのこと思い出してよ、能力は使えてもキャラになり切ったり、 勝手に口が動いたりとかはしなかったでしょ?」 確かに。 強いて言えば、テストの時やり方が頭の中に流れてきてはいたけど… じゃあそれ以外の、テストの問題を解く以外の 感情とか思考回路がキャラクターになり切ったかといえば…そう言うことはなかったか…。 「だから、あんたが緊張すればちゃんと緊張するし、ミスることもあるよ?」 「本番前に怖いこと言わないでよ。」 僕がリベルダにそう返事をすると、バックミュージックが止まり、 大きな歓声が会場内を響かせていた。 その後『仮面マスク』のコスプレをして参加した人は、 コスプレした理由とか、このキャラのどこが好きなのかとか 司会の人からインタビューを受けていた。 これが終われば、自分の出番。 緊張しないといえば嘘になる…でも。 「僕は…『正樹』の能力信じてるから。」 とリベルダにそう呟いた。 だって、今までの力だってそうだった。 早く走る練習をしてないのに走れたし、勉強できなくても100点を取れたんだ。 なら今日の正樹も、出来ないなんてことはないはずだ。 「でも、舞台の経験は?」 「小学校の学芸会くらい」 尚、木の役である。 「やっぱ慣れてないじゃん!そんなんで本当に大丈夫? こんな大勢の目の前でパフォーマンスなんてできる!?」 「このフェス参加の提案をしたのはリベルダでしょ? 大丈夫だって!僕人前平気だし。」 と、明るくリベルダに告げる。 もう時間もないのでリベルダは 「そう…?じゃあ検討を祈る」 と言って、自分の画面を閉じた。 正直…この盛り上がりの後に出ていくのは結構不利だ。 でも…自分のコスプレだって、細部までこだわった相当なクオリティーだ。 歌のクオリティーも、それに答えてくれるはずだ。 「14番さん、スタンバイお願いします。」 「あ、はい。わかりました。」 スタッフの人に声をかけられ、準備を始めると 「それでは、この勢いで次の方のパフォーマンスも エントリーナンバー14、『レジェンド・シンガー、天王寺正樹』で『Continue challenge』」 と司会者が紹介し、バックミュージックが流れた。 その瞬間、黄色い歓声が会場中響き渡った。 適度なところで僕は正樹っぽくステージに駆け出していく。
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