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三話 コスプレの館、怪しげな店主
放課後。
「前も思ったけど…やっぱこの店不気味だ…」
例の怪しげな店の前までやってきた僕は、店を見上げてしばらく眺めていた。
裏路地にひっそりと佇むその店は、この…毒々しい紫色で全体を塗られた建物に、黒い木でできた板に『コスプレの館』と蛍光の緑色の絵の具で書かれた看板。
内装も紫色で塗られていて、机や棚、ハンガーなど黒い木で作られた家具や備品。
奥の試着室だけは普通の蛍光灯を使っているが、
それ以外の場所では電気は豆電球を使用している。
正直あんまり来たい店ではない。
実際ここに来たのは勇者の衣装を買った時だけ。
「でも、ああなった原因探るには、ここしかないよな。他に思いつかないし…」
普通に考えたら衣装のせいと考えるはずがないんだけど、
他に思いつかない以上、ここを調査する他ない。
僕は一度肺の中に溜まっている空気を全て吐き出してから扉に手をかける。
カランコロンカランという音が鳴る。
するとその音に反応したのか、
カウンターの椅子に腰掛けた年配の女性が、ゆっくりとこちらを振り向く。
「いらっしゃい」
まるでその姿は、おとぎ話に出てくるような魔女だった。
それこそ、毒林檎作ってそうだ。
店主は僕をジロジロとみると笑顔を作り話しかけてきた。
「おや、この前の坊やだね」
僕は無表情で軽く頭を下げる。
この前のって…一度しか来たことのない客のこと、覚えてるんだ。
それとも来る客には、みんなにそうやって声をかけてるんだろうか…
どっちにしろ気持ち悪いので、
僕は店主を無視して店内の衣装を見て回ることにした。
それにしても…服を何着かみて改めて思ったことがある。
この店、本当にいい素材を使ってる…
「生地もちゃんと分厚いし、手触りもいい、縫い目も綺麗だ。」
でもやっぱその分高っ!
他の店だったらもっと安く買えるのに…
ついでにいいのあれば買うつもりだったけど、
無理だな…予算オーバー...
じゃなくて!
ちゃんとした生地使ってること以外はおかしなところはないな…
なんか魔法みたいな怪しい光も紋章もないし。
やっぱ考えすぎか?
あんなことできたのが衣装のせいなんて…。
僕はそんなこと考えながら、衣装を触ったりタグを見ながら物色していると
「ぼうや、この前のコスどうだった?」
また店主から声をかけられる。
こう何度も、まるで知り合いとの雑談のように声をかけられるとは思ってなかったので、またしても驚いて方をビクッと揺らした。
「あ、はい。
クオリティーめちゃくちゃ高くて…満足しました」
なんか返事をしないのは失礼な気がしたのでそう答えると、
店主は満足そうにニッコリと笑うと一つ頷いて、
「そうだろそうだろ、うちのコスは本物そのものになれるからね」
と僕にいった。
僕はそのセリフに反応して息を呑む。
本物そのものって…どういう意味だ?
まさか…
「あの!この衣装って…」
僕が店主に質問をし終える前に
「あの衣装、まるで本物の勇者になったみたいだっただろ?
細部まで細かく作ってあるから。」
店主は僕の言葉に被せて、こう説明してきた。
あぁ…なんだ…見た目のことか…。
そりゃそうか。
コスプレしたくらいで、能力までそのものになれるわけがない。
飛躍しすぎた想像をした自分を少し恥じた。
そして、結局関係ないらしいということがわかり、落胆する。
「あれ…?」
でも、ちょっと待て。
この前買った衣装が勇者だったなんて…僕言ったっけ?
単純にこの前来た時のこと覚えてるだけか?
この店主…僕がなんの衣装買ったかまで細かく覚えてるんだな。
それともそのくらい、この店に来る人が少ないんだろうか…
「今日も何か買うかい?」
店主は僕にそう聞くが、
あくまで日曜日の出来事の手がかりが欲しかっただけで、
衣装が欲しかったわけではない。
「あぁ…いえ、お金ないので今日はこれで…」
冷やかしみたいで怒られるかな…と一瞬気まずく思ったが
店主にはもうちょっとごねられるかと思ったけど、案外あっさりしていた。
「そうかい、またおいで。
ところで坊や、この前アプリは登録してくれたかい?」
帰るのを許す代わりに、僕に質問を投げかける店主
「アプリ?」
言われて思い出す。
そういえば、この前きた時ダウンロードを勧められたっけ。
僕は自分のスマホを操作してこの店の名前のアプリを探して提示する。
「これですか?」
確認のためにアプリの画面を店主に見せると
ニヤリと笑う。
「それそれ、それポイントついたり割引できたり、
アプリからも衣装買えるからね、ぜひ活用しておくれ」
店主はそう言い残すとクククと笑いながら、カウンターの席を立ち奥に引っ込んでしまった。
全く、なんなんだこの店は…
不気味度が上がったその店を僕はさっさと出て行くことにした。
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