七話 レベル上げの作戦①

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七話 レベル上げの作戦①

協力関係を結んだ翌日、学校の休み時間。 僕は人に見つからない場所で、 アプリの中の妖精に向かって話しかけた。 「なるほどね〜これが君の1日の生活か。 願いの叶え甲斐がありそうだね、あんま冴えた場面なかったし。 これは簡単にレベルが上がりそうかも!」 携帯の中の妖精はキャッキャと笑いながらそういった。 画面下の顔文字は『(=^▽^)σ』 今日一日、この妖精に監視されていたのだ。 昨日早速願いを聞かれたが、特に叶えたい願いがなかったため 妖精がやる気を出して、今日一日の学校での様子を見て決めようと言う話になった。 その結果、誰かに話しかけては無視されて、女子にバカにされて 授業で当てられた場所は全部間違えるし、今日の体育のリレーは僕のせいで負けるし 情けない一日を、この妖精に全て見られたのだ。 笑われても仕方がない。 でも、だからと言って腹が立たないわけではない。 「そん何笑うなら、願いを言うどころかお前の店で衣装買ってやんないからな!」 僕はブチギレると、妖精は慌てて謝ってきた。 「あー、ごめんごめん! でもさ、なんでそんなにあんた周りに相手にされないの?コミュ障?」 「失礼な、そんなんじゃないよ。コスプレイベントとかでは人と普通に話すし。」 「へーじゃあ、コスプレ仲間的なのはいるんだ」 「…」 どうせ野良ですよ。 どこかのグループに所属ってわけじゃないし、連絡先交換もしてないし。 でも、ちゃんとその日会ったレイヤー同士で雑談するし、盛り上がるし! 連絡先交換しないけど! 「強がり?」 「だからそんなんじゃないって!コスプレに頼らなくったってコミュ力はある! 実際自分から話しかけてるとこと見てたでしょ!?」 「確かにそうだね。 あー、じゃあかわいそうに…相手にされないんだね。」 「うるさいな!」 図星を言い当てられて僕は妖精に吠える。 言っとくけど、本当にコミュ力はあるし昔の友達とは今でも連絡を取る。 今の学校でこんなんなのは、別にコミュ力が問題じゃない。 ある日を境に、どんなに積極的に話しかけても、返事してくれなくなっただけだ。 そりゃ、勉強もスポーツも残念なヒョロイ僕に絡まれてもメリットないだろうけど! なんか、自分で考えてて悲しくなってきた。 「文句言うだけで願い叶えないつもりならアプリ落とすよ!!」 「あーやめてやめて!ごめんってばー!」 図星を言い当てられた腹いせに、妖精をそうやって脅すと 妖精は僕に対して色々言いすぎたことを謝罪する。 このワチャワチャしたやりとりも、 側から見たら携帯を片手に一人叫んでいるだけに見えるんだろうな…と思うと、 ちょっとやりきれない気分になった。 しばらくしてお互いが落ち着くと、妖精は咳払いをして話始める。 「まぁ、私もちょっと悪かったけど、 でもさ、私は願い事の提案はできても決めるのはそっちなわけよ。 こちらとしては早めに決めてもらわないと困るというか…」 まぁ、妖精の言い分もわかるけど、僕にだって言い分はある。 願いを決める前に、金銭面の問題がある。 いくら願いを叶えたいからといって、片っ端から衣装を買っていたら お金がなくなってしまう。 そんな真剣な悩みも妖精には他人事。 「そんなに悩むこと?優柔不断な人はモテないよ」 「…誰のために願い事考えてやってると思ってんだよ」 願いを叶えてくれるのはありがたいが、 無理に考えろと言われるのもちょっと困るな… そんな時。 「人の声が聞こえると思ったら、もやしかよ。何1人でぶつぶつ喋ってんだよ。」 誰かに声をかけられる。 こんな人気のないところに誰かと思えば… 誰かと思えば、クラスの3人の不良どもだった。 こんな人気のないところで出くわすとは… しかも最悪のタイミングだ。 不良達は僕のスマホをヒョイっと取り上げると 「うわっ、アニメのキャラクターじゃん。 お前そういう趣味かよ」 「待ち受けそれなのはともかく、待ち受け画像と喋るのは論外だわ」 とバカにしてくる。 「返せよ」 ちょっとイラついて不良達にそういうと 「いらねーよ、こんなスマホ」 といって、ポイっとスマホを投げて返す。 なんか気持ち悪いものでも触ったかのような反応だ。 「そんなんだからリレーにも負けるし、女子に相手してもらえねーんだよ」 「ほんと、お前のチームのメンバーかわいそうだったな、 一番早かったのに俺らに抜かれてさ!」 「2次元に慰められてないで、3次元で彼女作れよな」 ガハハと笑って、そのままどこかへいく不良たち。 何もされなかったのは良かったけど、すこぶる気分は悪い。 このあと教室に戻ったら、あらぬ噂を広められてるかもなぁ… 少し絶望的気分になる。 「何あれ」 状況を把握できていない妖精は、 キョトンとした表情でこちらの方に顔を向けるので、ざっくりとだけ説明をした。 「うちのクラスの不良ども。」 「へー、なんで絡まれてんの?」 「知らない。サンドバッグにちょうどいいんじゃない? 僕こんなんだから力無いし。」 「ふーん…そうなんだ。くんも大変だね」 「僕の名前はじゃない!」 反射的にそう返す。 みんなそうやって僕のことを呼ぶが、僕はその名前が好きじゃない。 好意的につけられたあだ名じゃないから。 「揶揄う意味でつけられたあだ名…本名は…別にある。」 「へー、そうなんだ、ごめんごめん。 じゃあ、君なんて名前なの?」 謝ることもなければ、なんの悪びれもなく妖精はそうやって普通に聞いてきた。 まぁ、よく考えたら昨日のあれこれで自己紹介まだしてなかったな。 「裳山(もやま) 真実(しんじ)」 それを聞くと妖精は『ぷっ』と吹き出して 「やっぱ、じゃん。」 と、またケタケタと笑った。 あまりにも腹が立ったので仕返しがしたくなった。 「そういう君はなんていう名前なの?」 「私?私はリベルタ・フリーだよ。」 「…」 「立派な名前でしょ、いじるところない完璧な名前」 勝ち誇ったような妖精の笑顔。 さらに腹が立つ。 こうなったら名前の粗探しをしてやる。 そう思って携帯のバックグラウンドから検索アプリを開いて 『リベルダ』に本当に意味がないのか検索してやった。 するとその結果…ある言葉が引っかかった。 俺は妖精の画面に戻すとニヤリとして妖精に言い返してやる。
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