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再会
バスに乗って、窓の外の移り変わっていく風景を眺めていると、車内にいた人の話し声がして、僕は少しだけその話を聞いていた。息子が海外旅行に連れて行ってくれたという話だった。僕は意識を視界に向け、窓の外の森をただ見ていた。
バスはしばらくすると停車して、降りると、草の匂いがして、空気は澄んでいた。辺りには森が広がっているが、ところどころに家が点在している。僕はスマートフォンで住所を確認しながら、歩いて行った。春の日差しが辺りを照らし、涼しい風が吹いている。一つの民家が見えた。
インターホンを押すと、返事があった。家の扉が開き、そこには昔から馴染みのある佐々木さんが立っていた。
「わざわざ遠くからありがとう」
彼はそう言ってほほ笑んだ。
「会えるのを楽しみにしていました」
家の中に入ると、たくさんの絵が飾られている。どの絵も完成されていると感じるほど洗練されていた。
「君は今、美術の大学に通っているんだろ?」
佐々木さんはキッチンでコーヒーを淹れていた。
「はい。画家を目指しています」
僕が座っているテーブルにコーヒーの入ったカップが置かれた。佐々木さんと出会ったのは僕が小学生の時だ。近所の市民センターで絵を教えていたのが佐々木さんだった。その頃、彼は大学生で、今の僕と同じように美術を学んでいた。大学生の頃から賞をいくつか受賞していて、彼はアルバイトで僕らに絵を教えてくれていた。
「あれからずいぶん経ったな」
佐々木さんはそう言うとポケットから煙草の箱を取り出して火を付けた。
「今でも当時のことを思い出すことがあるんです」
「懐かしいな。俺も当時はまだ半端だったからさ、賞は取ったことがあっても、美術の神髄には到達していなかったと思う」
「でも当時の佐々木さんの絵は好きでしたよ」
僕がそう言うと佐々木さんはほほ笑んだ。僕は持ってきたボストンバッグからキャンパスを取り出した。佐々木さんは僕からそれを受け取ると注意深く絵を見ていた。
「よく描けているよ。でもこれは君が表現したいことなのか?」
「自分でも試行錯誤はしているんです。ただ今は何となく進む方向が見えないんです」
「それが、君が今日ここに来た理由だね?」
「はい」
佐々木さんはそう言うと立ち上がった。彼は棚からファイルを取り出した。その中にはたくさんの画家の絵が入っていた。
「今日から一週間、ここにある好きな絵を模写してほしい」
「模写ですか?」
「まずは既存の画家が何を表現しているか感じるんだ」
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