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ディサンダアルとマヤが、城銀行きの手続きを進める間。
車掌は燐の死霊との出来事を、仲間達に伝えていた。
既に車掌の過去を聴いていた皆は、そこまで驚くことなくすんなりと受け入れた。それぞれ程度の違いはあれど、様々な経験を積んできた者達。車掌が燐の死霊と契約したと聞いても、すんなりと受け入れるのだった。
「『虚無』と比べたら、随分と優しい死霊ですね」
「元は同じ人間だったからかな。互いに納得して契約できたと思う」
「元々良い子だったんですよ。僕が捕まった時も助けてくれたんですから」
「いやいやタテハ。グランゼリオ壊したのは悪いことでしょ」
別行動していたのは短かったが、随分と長く離れていたような。
グランゼリオの乗務員三人は、同じような感情を抱いていた。
「任せちゃって良いんですか? 前は引き渡すの、あんなに拒んでいたのに」
「グレイスなら信頼できる。バスさんもあいつに任せろと言っていた」
「ソウさんも一緒ですし。仮に暴走しても、止めてくれますよね」
グレイスとソウは、話を聞き終えると即座に席を立った。
車掌のことは勿論だが、それ以上に気がかりがあったのだ。
「グレートヒルンの一族として、列車が壊れたままなのは看過できませんわ。今回は何がなんでも修理させて頂きます。邪魔しないでくださいね‼ 」
「あー……お嬢だけじゃ心配だから、私も一緒にやりますね」
燐の死霊によって、またしても壊されたグランゼリオ。
自動修復機能はまだ完全に復旧せず、未だ破損した状態でホームに放置されていた。屑鉄の心臓は少しずつ以前の動きを取り戻していたが、まだ万全ではない。今のグランゼリオに、人の手による修復は必要だった。
「うひひ。これでやぁっとグランゼリオに触れますわ……‼ そうだ車掌さん。屑鉄の心臓は貴女の中にありますのよね⁉ ちょっとここでお召し物を脱いで、全身くまなく眺めさせて貰っていいかしら。いやさせなさい」
「待って待って、絵面がやばいですって‼ ほら行くよお嬢。修理は我々でやっておくので、皆様はごゆっくり……あぁもうっ。抵抗するなっ。重いっ」
ソウが遂に声を荒げ、グレイスを引き摺って外に出た。
いよいよ城銀に戻る時が来たと思うと、車掌の心は引き締まった。十年前、ルフトとユーリノーカが決死の思いで封印した死霊。果たして今の自分たちに、永眠らせることが出来るのだろうか。
「んふふ」
「ねぇ」
「何をニヤニヤしている」
「いや。車掌さん、表情豊かになったなぁって」
ツミキがけらけら笑った。
恐らく考えていたことが、露骨に顔に出ていたのだろう。
以前は感情の再現でしかなかったが、今は魂が自然と表情を作ってくれる。
「大丈夫ですよ。きっと葬錚出来ます」
「……奴は強い。もう一度戦って、勝てるかどうか……」
「もう車掌さんったら。僕達を誰だと思っているんですか」
緑の目を光らせて、車掌は二人を見渡した。
片や「虚無の死霊」を呼んで、奏橋を壊滅させた死霊術師。片や人間を捕食し、大太刀で死霊すら切り伏せる獣人……そして自分は、死霊を心に宿した機械人形。
「……みんな化け物だな」
「ふふん。化け物で結構です」
「こんなのが三人揃って、死霊一体に負けませんよ」
無茶苦茶な理屈だが、今はそれが嬉しかった。
誰も守れなかった罪。故郷を滅ぼした罪。恋人を殺めた罪。
それぞれ罪を背負いながら、醜くてもただ前に突き進む。
今の自分たちに出来るのは、結局それだけだった。
「手続きが完了しました。皆様の『城銀』への立ち入りを許可します」
部屋に入ってきたマヤが、静かに告げた。
【第10話】おかえり 終
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