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ーーーーーー
心臓が軋む。
何度も終わった筈のこの身を、まだ生かそうと動き続ける。
「……」
何があったかは想像が付く。
ディサンダアルは燐の死霊を調べるために、捕獲しろと言った。
ならば調査の対象は、姿の酷似した自分も入って当然だろう。
「抜け目ない爺め……」
その部屋はひどく殺風景だった。
塔の地下に作られた、小さな部屋。
光は天井に吊るされたランプだけ。外の様子は見えない。
「……かなり壊れた」
このダメージだと、修復まで大分掛かりそうだ。
幸いにも設備は悪くない。
置かれたベッドは柔らかく、木製の机、シャワー。そして鏡まである。
「……同じ顔だな」
自分を見たのは久々だった。
燐の死霊とよく似た顔。
肌の色。目の色。隠している目の左右。
違う点はそれだけ。気味が悪いほど似通った存在。
ーー今助けてあげるからーー
燐の死霊の言葉が頭から離れなかった。
「奴は何者なんだ……? 」
あの死霊は謎が多い。
蒼影で初めて会った時も。
新縁公園で、タテハの場所を知らせた時も。
乗務員以外は扉を開けられないグランゼリオに、平然と侵入してきた。
「扉を開けられるのは、三人だけの筈……」
……いや違う。もう一人いる。
だけどあの人は絶対に違う。
「まさか、先だ……ぐあぁっ⁉ 」
全身を激痛が襲った。
背中から大量のワイヤーが飛び出し、ベッドを突き破る。
手足が意図せず変形し、黒光りする機械が体内から飛び出す。
「はぁっ、はぁっ……大分進んだ、な……」
元に戻そうとすると、全身が軋みながら痛みが走る。
胸が激しく鼓動し、眼帯で覆われた右目から赤い液体が漏れる。
血ではない。ほのかに明滅する、鉄の匂い漂う液体。
「何故、知っている……? 」
ーーもう時間が無いのーー
「この身体のこと……」
ふらつきながら身を起こし、顔の右側に手を掛ける。
はらりと紐が解け、床に落ちる眼帯。
布で覆われていた右目が、久しぶりに外気に触れた。
「……懐かしいな」
右目がある筈の場所に、それは無かった。
伽藍洞な穴の中には、所狭しと詰め込まれた大量の歯車。
歪な機械音を立てながらも、決して駆動を止めることは無い。
「……時間が無い、か」
歯車の右目。砲塔やブレードが飛び出す手足。背中から飛び出すワイヤー。
狭い部屋に佇む影は、人の姿では無かった。
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