【第8話】罪姫(後編)

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ーーーーーー  心臓が軋む。  何度も終わった筈のこの身を、まだ生かそうと動き続ける。 「……」  何があったかは想像が付く。  ディサンダアルは(りん)の死霊を調ために、捕獲しろと言った。  ならば調査の対象は、姿の酷似した自分も入って当然だろう。 「抜け目ない(じじい)め……」    その部屋はひどく殺風景だった。  塔の地下に作られた、小さな部屋。  光は天井に吊るされたランプだけ。外の様子は見えない。   「……かなり壊れた」  このダメージだと、修復まで大分掛かりそうだ。  幸いにも設備は悪くない。  置かれたベッドは柔らかく、木製の机、シャワー。そして鏡まである。   「……同じ顔だな」  自分を見たのは久々だった。  (りん)の死霊とよく似た顔。  肌の色。目の色。隠している目の左右。  違う点はそれだけ。気味が悪いほど似通った存在。 ーー今助けてあげるからーー  (りん)の死霊の言葉が頭から離れなかった。 「奴は何者なんだ……? 」  あの死霊は謎が多い。  蒼影(あおかげ)で初めて会った時も。  新縁公園(しんえんこうえん)で、タテハの場所を知らせた時も。  乗務員以外は扉を開けられないグランゼリオに、平然と侵入してきた。 「扉を開けられるのは、三人だけの筈……」  ……いや違う。もう一人いる。  だけどは絶対に違う。   「まさか、先だ……ぐあぁっ⁉ 」  全身を激痛が襲った。  背中から大量のワイヤーが飛び出し、ベッドを突き破る。  手足が意図せず変形し、黒光りする機械が体内から飛び出す。 「はぁっ、はぁっ……大分進んだ、な……」  元に戻そうとすると、全身が軋みながら痛みが走る。  胸が激しく鼓動し、眼帯で覆われた右目から赤い液体が漏れる。  血ではない。ほのかに明滅する、鉄の匂い漂う液体。 「何故、知っている……? 」 ーーもう時間が無いのーー 「この身体のこと……」  ふらつきながら身を起こし、顔の右側に手を掛ける。  はらりと紐が解け、床に落ちる眼帯。  布で覆われていた右目が、久しぶりに外気に触れた。 「……懐かしいな」  右目がある筈の場所に、それは無かった。  伽藍洞な穴の中には、所狭しと詰め込まれた大量の歯車。  歪な機械音を立てながらも、決して駆動を止めることは無い。 「……時間が無い、か」  歯車の右目。砲塔やブレードが飛び出す手足。背中から飛び出すワイヤー。   狭い部屋に佇む影は、人の姿では無かった。
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