【第11話】悲劇

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【第11話】悲劇

ーー死霊大全 第13章(追補版)220頁~230頁ーー 『悲劇の死霊』  強大な力を持った死霊は、歴史上数知れない。  しかしその中でも特筆すべき存在を問われた時、多くの死霊術師(ネクロマンサー)は本個体を答えるだろう。『悲劇の死霊』は有する固有能力、歴史に与えた影響力、単純な戦闘力の何れを取っても、最強に相応しい死霊である。  特定の場所には留まらず、生物の集まる場所、主に駅に出現することが多い。前兆もなく出現し、炎上する街が広がる慕地(ぼち)を作り出して、内部に閉じ込めた生物を無差別に捕食する。攻撃時には腕を無数に伸ばし、影のように展開して広範囲を一気に飲み込む。更には炎を自在に操ることも出来、ものの数秒で数千人の住民を虐殺。全ての建物を崩壊させたという報告もある。  本種は三種の形態を持つ。  第一形態は黒い球状の姿をしており、表面には数千を超える数の瞳がある。  この瞳から発射する破壊光線を主な武器としており、腕や炎を交えた広範囲の攻撃を得意とする。動きは愚鈍だが、腕を高速で伸ばすことで補っている。  第二形態は第一形態の内部から出現する。  七つの異なる獣の顔を有し、背中には枯れた木のような翼が四枚生えている。腕には錫杖を握っているが、これは武器として扱われることは無い。  主な攻撃手段は第一形態と変わらないが、本形態固有の能力として、強力な精神的動揺を齎す干渉波を発する。これを浴びた者は『悲劇の死霊』に強烈な依存心を抱くようになり、放心しながらも接近を試みるようになる。  駅を数秒で滅ぼす力をもつ『悲劇の死霊』にとって、この干渉波は無意味なようにも思える。しかし後述する性質を鑑みると、この干渉波こそが『悲劇の死霊』にとって必要不可欠なものだと考えられる。  第三形態は青年期の少女に酷似した姿となる。  黒い翼と髪、深紅の瞳を有し、白いドレスを纏った異様な姿となる。ここまで人間と酷似した死霊の目撃例は極めて稀で、今日(こんにち)でも本個体を含め、二例しか確認されていない(→231頁『(りん)の死霊』も参照)。  有する力は全形態でも最高であり、精霊王ユーリノーカから翅を二枚奪うという前代未聞の記録を残している。腕の一振りで爆発を起こすなど、未だ原理が未解明の技を多く保有しており、現在も研究が進められている。  魔法連盟第64代議長、ログ=ディサンダアルらの調査により、本個体には他の死霊には見られない、特異な性質があることが判明した。 『悲劇の死霊』は駅を襲撃する際、事前に数か所の駅を訪れて人間を捕食。力を蓄えて万全な状態になると、その地域一帯の駅に同時に出現する。そして駅に住む人間の中から『最も幸福な感情を抱いている青年期の少女』を選び出し、眩い閃光と共に隔離。接触を試みる。 ※この際に第一形態から第二形態に変貌し、先述の精神干渉波を放出する。  干渉波を浴びた者は『悲劇の死霊』を「自分をこの悲劇から助ける救世主」と認識するようになり、一切の抵抗をしなくなる。そして救いを求めて接近すると、四肢を切断して逃亡を封じ、体内に取り込む。  取り込まれた少女は『悲劇の死霊』と意志を共有する端末となり、『同一の死霊が複数の駅に出現する』という異様な行動を可能とする。  本個体が生まれるきっかけとなった『思い』は判明していない。  慕地(ぼち)が燃え盛る街であることや、建築物の特徴等から、1500~2000年前に発生した火災で死亡した人間ではないかと考察されているが、該当する災害の記録は現在も発見されていない。  また、第三形態の姿から推測するに、元となった人間も同年代の少女であったと考えられる。「幸福を感じている少女と接触する」という性質から、同年代の少女に対する執着又は慕情が『思い』ではないかと推測されているが、あくまで想像の範囲に留まっている。  ××××年、城銀(しろがね)駅で、本個体の討伐作戦が決行された。  しかし『悲劇の死霊』は××××××××××× (この先は破れて読めない……)
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