二人目の赤ちゃん、その名は青藍。

1/9
前へ
/136ページ
次へ

二人目の赤ちゃん、その名は青藍。

 萌黄が黒緋の寝殿(しんでん)滞在(たいざい)するようになって十日が過ぎた夜。  私は渡殿(わたどの)で月を眺めていました。  眠ろうと寝床に入ったものの、月明かりが眩しくて眠れなかったのです。  まるで誘うような月明かり。静謐(せいひつ)な夜を淡い光で優しく照らす。  私は眠ることを諦めると渡殿で月を眺めていました。  見上げた月は楕円形。あと幾日かで満月となるでしょう。  月明かりの下でぼんやり一人の時間を過ごしていると、ふと黒緋が渡殿を歩いてきました。 「鶯、まだ起きていたのか」 「黒緋様っ……」  私は慌てて居住まいを正しました。  恥ずかしい。誰も来ないと思っていたのでぼんやりしていたのです。  床に両手をついて迎えた私に黒緋は「楽にしてくれ」と隣に腰を下ろしました。 「眠れないのか?」 「はい。月が眩しかったので」 「じつは俺もだ。今晩の月は眩しいほどに美しい」  黒緋はそう言うと私の隣で月を見上げます。  私は黒緋の端正な横顔を見つめ、そして同じ月を見上げました。  今ここに黒緋と二人きり。  こうして二人きりの時間をすごすのは久しぶりでした。  今晩、萌黄は寝殿に不在でした。今晩は公家(くげ)の寝殿で夜宴があるようで、それに招かれているのです。萌黄は夜宴に行くことを嫌がっていましたが、これも斎王の役目の一つということで出かけていきました。 「今夜の月はとても明るいので、寝床に燭台(しょくだい)は必要ありませんでしたね」 「そうだな」  静かな時間が流れていました。  こうして二人きりでいられることが嬉しいです。  でも同時に萌黄の不在を喜んでしまう自分もいて、その(みにく)さに胸が苦しくなる。萌黄は大切な妹なのに不在を喜んでしまうなんて最低です。 「鶯」  ふと名を呼ばれ、びくりっとしました。  私の(みにく)い心を見抜かれたと思ったのです。  でも違ったようで、「頼みがあるんだが」と私を見つめます。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加