二人目の赤ちゃん、その名は青藍。

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「黒緋様……」  私は途中で(まい)を止めました。  じっと見つめる私に黒緋が眉を上げます。 「どうした鶯、やはり気乗りではなかったか?」 「そうではありません」  どうしたら黒緋の役に立てるでしょうか。  どうしたら黒緋に喜んでもらえるでしょうか。  どうしたら黒緋の側にいる理由を作れるでしょうか。  今まで一緒に過ごした中で、黒緋が最も喜んでくれたことが一つだけあります。  それと同じことをすれば黒緋はもっと喜んでくれますよね。  お前は最高だと、また私を抱きしめてくれるかもしれません。 「黒緋様、強い子どもは欲しくありませんか? もう一人、強い子どもを」  自分が口にしている言葉に()()がしました。  強い子どもは天妃のためのもの。それをこんな理由で自分から望むなんて馬鹿げています。  でも、……もうこれしかありませんでした。 「鶯、それは本気か?」 「本気です。だって必要なんですよね?」  四凶(しきょう)を滅ぼすためには強い力を持った者が必要です。  黒緋と私の(あいだ)にはそれに(かな)った力を持った子どもが生まれてきます。  だから、きっと黒緋はまた望んでくれるはず。  重い沈黙が落ちる中、祈るような気持ちで黒緋を見つめました。  怖いです。とても怖い。  いらないと言われたら。萌黄がいるから必要ないと言われたら。きっともう立ち直れません。  でも。 「俺は紫紺が生まれてきてくれただけで充分だと思っている。だが、強い子どもが増えるのは嬉しい。お前との子ならなおさらだ」  そう言って黒緋が優しく微笑んでくれました。  私だけを見つめて優しく。 「黒緋様……」  ああ、ため息が漏れました。  良かった。まだ私は望まれている。  あなたに必要とされているのですね。  役に立てれば、このまま側に置いてもらえます。 「鶯、来い」  黒緋が私に手を差し出しました。  その手に手を重ねると、ゆっくりと抱き寄せられます。  私より大きな体躯に抱きしめられて、(たくま)しい胸板に両手を置いてそっと身を寄せます。  甘えるように肩口に顔をうずめると、大きな手にそっと頭を撫でられました。 「鶯、ありがとう」  耳元に響いた黒緋の声。  顔を上げると穏やかな面差しの黒緋と目が合いました。  唇が触れ合いそうな近い距離。  ……ああ、本当に触れあえたならどれだけ幸せでしょうか。  叶わない想像をして眩暈(めまい)を覚えました。 「……黒緋様。どうか、どうかあなたの望みが叶いますように」  私は微笑して言葉を紡ぎました。  祈るように、願うように、心にもない言葉を。
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