二人目の赤ちゃん、その名は青藍。

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「ほんとだ! ほんとにはすのはなだ!」 「わあっ、綺麗っ。まるで光の(はす)みたいだわ」  紫紺と萌黄が感嘆(かんたん)しました。  美しい光の光景はまさに奇跡のそれ。初めて目にした時の感動を私もよく覚えています。  私は緊張しながらも立ち上がりました。  渡殿から庭に降りると池に向かって歩きます。濡れることも構わず池に入ると、ザブザブと光の(はす)の前まで行きました。  そして祈るような気持ちで(はす)(つぼみ)を見つめます。  待ち望んでいた二人目の子ども。  どうかどうか黒緋が喜ぶような強い子どもでありますように。  (つぼみ)から光が放たれて開花が始まりました。  私は食い入るように見つめて、そこにいた小さな赤ん坊の瞳と目が合う。でもその途端(とたん)。 「う、うええええええええん!!」  赤ん坊から大きな泣き声があがりました。元気な男の子の産声です。 「ま、待ってくださいっ、すぐに抱っこしてあげますから……」  突然の泣き声に慌てて抱っこしました。  元気な産声は嬉しいけれどびっくりしてしまいましたよ。 「よしよし、もう大丈夫ですよ。よしよし」 「あう〜っ、あう〜っ、ああああああああああん!!」 「ああ泣いてはいけません。そんな大きな声で……」  小さな体を両腕で抱っこして揺らしていると、ようやく「ひっく、ひっく……、うぅ」と泣き声が嗚咽(おえつ)に変わりだしました。  それにほっと肩の力が抜けて、腕の中の赤ん坊に笑いかけます。 「初めまして、鶯と申します。よく生まれてきてくれました」 「あう〜。ちゅちゅちゅ、ちゅちゅちゅ」 「あなた、(ゆび)()うのですね」  抱っこした両腕に乗る甘やかなぬくもり。まろい頬に(つぶ)らな瞳。小さな親指をちゅっちゅっと吸って、じっと私を見つめてきます。  ああ、ため息が漏れました。あなた可愛いですね。 「ははうえ、みせて!」  ザブザブと大きな水飛沫(みずしぶき)をあげて紫紺が近づいてきました。  我慢できずに池に入ってきたのですね。紫紺の瞳は喜びでキラキラ輝いています。 「ふふふ、どうぞ。あなたの弟です」  私は身を(かが)めて紫紺に赤ん坊を見せてあげます。  紫紺は初めて目にする赤ん坊に興味津々ですね。 「おおっ、ちいさい……」 「まだ赤ん坊ですからね」 「これがオレのおとうと?」 「そうですよ。あなたの弟です」 「さわってもいい?」 「もちろんです。優しくしてあげてください」 「わかった!」  紫紺は自分の手を自分の着物で拭くと、そーっと赤ん坊に手を伸ばします。  紫紺の小さな指が赤ん坊のふっくらした頬をそーっと……ツン。 「ふわああっ。やわらかい〜〜!」 「ふふふ、赤ちゃんですからね。たくさん遊んであげてくださいね、兄上」 「オレ、あにうえ! あにうえだ!」  紫紺がはしゃいだ声をあげました。  三歳ながら鬼神と戦えるまでに強くなった紫紺ですが、初めての弟に感激しておおはしゃぎ。その姿はどこから見ても普通の三歳児ですね。  私は紫紺をなでなでしてあげると、池の(ふち)まで来ていた黒緋を振り返りました。  黒緋の隣には萌黄が立っていました。まるで寄り添っているように見えてしまって、私は(ゆが)みそうになる表情を隠すように(うつむ)きました。  でも池の中で突っ立ったままでいるわけにもいかず、黒緋の前へと歩いていきます。
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