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 そして、守護神は目覚める。  無性に居心地のよい人間の腕の中で。 「ッ……!?」  咄嗟に押し退けようとしたが、拘束もされていないのに、手足は水草に絡まったかのようにびくともしない。ならばと水を喚ぼうとするも、これも不可能だということを悟る。  どれほどの間、あの忌々しい牢に囚われていたのだろう。守護神の魔力が完全に枯渇してしまうとは。 「ああ、無理しないでください。また気を失いますよ」  腕の持ち主は、先程封印の氷を融かした人間である。場所は雪塗れの山頂から、小屋らしき狭い空間の、寝台の上に移っていた。  状況を理解する。氷から解放され、起き抜けに視界に入った人間の急所を狙ったはずが、命を奪う前にこちらが力尽きてしまったようだ。矛を形成できたのも全身が濡れていたからで、乾いてしまった今は水滴ひとつ生み出せない。  忠告に従うのは癪だが、敵意を感じるわけでもないので、足掻いて醜態を晒すよりは諦めるのが賢明だろう。  しかしこの人間も、刃を向けた存在を前に身を横たえるとは暢気なものだ。いくら感覚を研ぎ澄ませど、ここにはほかに魔力や生命の気配がない。目覚めたばかりの守護神など微塵も脅威にならぬと慢心しているのだろうか。あるいは余程の猛者なのか、と観察を続ける。  男だった。葡萄酒のような赤毛と、猛禽に似た鋭い眼光には見覚えがあるようにも思う。加えて、この抗しがたい心地よさだ。男と接触している部分から、清冽な魔力が体内へ流れ込んでくるのがわかる。  どうやら凡百の人間ではないらしい。むろん、そうでもなければ眠れる守護神を起こす理由はないだろうが。 「……目的は何だ」 「あなたを元気にすることです」  何とか声を絞り出せば、男は気後れした様子もなく唇を持ち上げた。
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