33人が本棚に入れています
本棚に追加
恋しい人だけど、会いたくない人
いつもの通い慣れた沿線でも、時間によっては行き交う人の色が違う。
笹倉 璃子24才。大学を出て住宅設備会社へ、はれてインテリアコーディネーターとして就職して2年目。
日々の定時退社で目にする人々は、学生や夕食の支度に急ぐ女性たちが多い。
今は金曜日の夜10時を回ろうとしている時間。
自分と同じく疲れ切った人や、少しお酒の匂いを漂わせた人々に紛れ、満員電車に溜息をつきながら乗りこむ。
今日は、勤めている会社のショールームの模様替えがあり、時間外就業で定時より3時間も遅く、クタクタになって帰路に着いた。
満員電車の人混みに押されて、奥の連結扉まで流されたとき、足元の荷物に躓きそうになった。
「キャッ!」
咄嗟に捕まえられた腕の先を見ると、見覚えのある顔が。
「璃子? 璃子だよな?」
「えっ! 国崎先輩?」
「久しぶりだな」
「え〜え、そうですね・・・」
記憶にあるラフなシャツではなく、キリッとしたス―ツを着ているが、2年前と少しも変わらぬ笑顔の国崎 俊輔先輩。
その変わらぬ爽やかな笑顔が、璃子の胸を締め付けた。
二度と会いたくない。そう思いあの日から彼の面影を消し去っていた。
最初のコメントを投稿しよう!