初めて会う王子様に執拗に追い回されています! 

1/5
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 成り上がり男爵家の長女パンゼロッタ・ベスパーは、今日も楽しげに学園内をうろついてた。幼いころのいじめを乗り越えてからは、このように人の多い学園でさえ大好きな場所になっている。  いつからか、ティリス王国第一王子のルミエン殿下と第二王子のロアール殿下も同じ学園に通っていた。そうはいってもパンゼロッタとは校舎も違うので、出会うことはほとんどない高嶺の剣。たまたま見かけることはあっても遠目で眺めるだけの存在だった。  パンゼロッタが友人ミーノと中庭を歩いてると、目の前から切れ長の目をした、美しい銀髪の青年が従者を引き連れ歩いて来た。庶民が軽い気持ちで近寄ってはいけないような厳かな雰囲気が漂っている。  間違いない。第二王子のロアール殿下だ。  パンゼロッタとミーノは邪魔にならないよう通路の端により、頭を下げてロアール殿下御一行が通り過ぎるのを待つ。  しかしなかなか通り過ぎる気配はなく、不思議に思ったパンゼロッタがちらっと顔を上げて様子をうかがうと、目の前にロアール殿下が立ち止まりこちらを見下ろしていた。ぎょっとしてすぐにまた頭を下げる。  何かしでかしたのだろうか、と何か言葉が発せられるのをひたすらに待つ。そもそも身分が違うので、話しかけられるとも限らないが…… 「やあパンゼ、久しぶりじゃないか。元気にしていたか?」  パンゼ?思わず下げていた頭を上げ、呆然とする。パンゼと呼ぶのはごく一部の親しいものだけで、ロアール殿下とは全く面識がないはずだった。  隣で頭を下げているミーノも驚き、眼球を蛙のように膨らませながらパンゼロッタに目配せをする。  パンゼロッタは苦笑いを浮かべたまま首を横に振った。 「第二王子ロアール殿下に申し上げます。本日初めてお会いすると思うのですが……」  恐る恐るそう答えるのが精一杯の返事だった。 「オレのことを忘れたというのか?」  鋭い目つきがさらに鋭く尖って威圧感がすごい。それなのにどこか悲しみを帯びて見えた。威圧感と悲愴感に全身を包み込まれ、今にも押しつぶされそうになるパンゼロッタ。これが王族のオーラというものだろうか。 「も、申し訳ありません。本当に初めてお会いするので。私は成り上がり男爵家の長女で、王族の皆さまにお会いするようなことはございません」  パンゼロッタはロアールの碧眼を見つめた。森の奥に存在する湖を思い出しそうなほど、深い輝きを放っていた。 「そのような冗談を申すな」 「殿下こそお戯れがすぎます」 「戯れではない」 「私も冗談ではございません」  二人は見つめ合い、いや、睨み合ってという方が正しいだろう。互いに一歩も譲る気配はない。  その日からパンゼロッタの生活は一変することになった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!