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教室でミーノと期末試験の話をしていると、急にクラス中がざわめき始めた。
「パンゼはいるか?」
教室のドアからひょっこりと顔をのぞかせたのはロアール殿下だ。庶民の教室にも怯むことなく堂々した面持ちで入って来る。
「どこの席だ」
「あちらの席でございます」
近くにいた生徒がご親切にも、パンゼロッタの居場所を包み隠さず教えてしまう。ロアールが一歩、また一歩と歩くたびに道が自然と扇のように開いた。
「だ、第二王子ロアール殿下にご挨拶申し上げます」
パンゼロッタは仕方なく挨拶のカーテシーを行った。
「堅苦しい挨拶はよせ」
気恥ずかしさで顔から火が出そうになるパンゼロッタを見て、ミーノは隣で必死に笑いをこらえていた。
(笑いごとじゃない!)
小声で注意をするもどこ吹く風のミーノは、笑うとクールさが消えて一気にかわいらしくなった。
「……二人は仲がいいようだな」
「ミーノは幼いころからの友人ですので」
「ふむ、それは素晴らしいことだ。他にも友人はいなかったか?」
「おりません。昔はいじめられてばかりで、やっとできた友人がミーノでございます」
殿下はなぜか少し不満げな顔をしている。
「今はどうだ?いじめられていないか?」
「今はもう大丈夫です。途中から悟ったので」
「悟った?」
「はい。我が家は成り上がりの男爵家で成金です。元は単なる平民なのでよくいじめられ、両親を恨んだことさえありました。しかし、その経営の手腕や経済力に、今は誇りをもっております。そんじょそこらの公爵家や侯爵家には劣りません」
パンゼロッタの自信に満ち溢れていた表情を見て、ロアールが微笑んでいるように見える。
「つまり、それはどういうことだ?」
「成金だからといって、引け目を感じる必要はないということです。幼いころは知識が乏しくそれが理解できませんでした。しかし、とある少女に出会ったおかげで、それに気がつくことができたのです」
自分で言いながら、昔のことを思い出していた。ミーノに出会う前、一番最初に勇気を与えてくれた美しい女の子。
その子はたまに屋敷に遊びに来て、よく面倒を見ていたのだが、年下にも関わらず全く手がかからなかった。それどころか彼女からたくさんの癒やしと勇気をもらった。何で今まで忘れていたのだろう。
「……だから今は、誇りと自信をもって生きております」
「なるほど、それは素晴らしい」
わざわざロアールが教室に来た理由はわからなかったが、帰るときは満足そうにしていたので面倒ごとにはならなかった。
それ以降もロアールの訪問は途絶えることはなく、庶民クラスの名物のようになっていた。
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