ありがとうの気持ち。

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ありがとうの気持ち。

 ある所に壁さんが住んでいました。  壁さんはとても心の優しい壁さんだったのですが、  大きな体をしていたので人間さんに怖がられていました。  壁さんは人間さんと話したがっていました。  いろんな話をしてみたいと思っていました。  壁さんの方から声をかけてみたりもしましたが、  人間さんは怖がってすぐに逃げてしまいます。  壁さんはいつも一人ぼっちでした。  それが悲しくて、寂しくて、  壁さんはいつも泣いていました。  *  そんなある日のことでした。 「壁さん、壁さん、こんにちは」  なんと人間さんの方から声をかけてくれたのです。  壁さんはとても嬉しかったけれど、  突然のことだったので声を出すことができませんでした。  待っても待っても何も返って来ないので、  人間さんは帰ってしまいます。  悔しくて、情けなくて、  壁さんの目からまた涙が出てきました。  *  だけれど次の日もその人間さんはまた来てくれたのです。 「壁さん、壁さん、こんにちは」  今度はちゃんと言わないと。  そう思って壁さんは勇気を出しました。 「人間さん、人間さん、こんにちは」  それは壁さんにとって、とても大きな勇気でした。  壁さんの声を聞いた人間さんは嬉しそうに笑ってくれました。  この時、壁さんはなんとなくだったけれど、  勇気の意味が分かったような気がしました。  こういう時のために勇気はあるんだなぁ、と思ったのです。 「壁さん、壁さん。ねぇ、どうしていつも泣いていたの?」 「あのね、人間さんがボクを怖がるんだ。だから悲しくて泣いていたの」  壁さんは感じていたことをそのまま言いました。 「どうしてだろうね。壁さん、こんなに優しい目をしてるのにね」  人間さんも感じていたことをそのまま言いました。  それはそのまま真っ直ぐ壁さんの心に届いたので、  壁さんは少し恥ずかしくなってしまいました。  そんな壁さんを見て人間さんはまた笑いました。  それはとてもとても優しい笑顔でした。  *  次の日からでした。  その人間さんの話を聞いた別の人間さんが、  壁さんの所にやって来るようになったのは。  壁さんが優しい壁さんだということが色んな人に伝わって、  壁さんは人間さん達からとてもとても好かれました。  壁さんはとてもとても喜びました。  悲しくて、寂しくて、  毎日のように泣いていた日々が、  壁さんと人々の笑顔の溢れる日々に変わりました。  そんな楽しい日々の中でも壁さんも人間さんも忘れません。  こんな楽しい日々が過ごせるようになったのは、  最初に話しかけてくれたあの人間さんがいたからだということを。  *  それから何年も、何十年も、  何百年も経ちました。  壁さんはその中で、  たくさんの出会いと別れを経験しました。  壁さんの住んでいる所には、  今でもたくさんの人達がやって来てくれます。  だけれど、  それでも壁さんは忘れません。  それでも人間さんは忘れません。  最初に話しかけてくれたあの人間さんのことを。  ありがとうの気持ちは、  ずっとずっと変わりません。  ありがとうの気持ちは、  ずっとずっと心の中にあるのです。
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