1342人が本棚に入れています
本棚に追加
戸惑う女と受け入れた男
***
都心にあるとは思えない豊かな緑と静けさに包まれた老舗料亭『仁しな』
伝統と格式が漂う純和風家屋の個室で、倉石美雪は長時間の正座による足の痺れに耐えていた。
(ううっ、足が痛い~)
ぴりぴりとした強い痺れに襲われているだけでなく、慣れない着物のせいで息も苦しい。
心の中ではだいぶ悶絶しているけれど表情には出さない。にこやかな笑みを浮かべながら、季節の食材をふんだんに使った懐石料理を口に運ぶ。
というのも今は、大切なお見合いの真っ最中。
とてもじゃないが足が痺れた、着物が苦しいなどと言えるような雰囲気ではない。
神聖なお見合いの席をぶち壊すような粗相があれば、両脇に座る伯父と伯母に叱られる。
(それだけはイヤ……!)
最初のコメントを投稿しよう!