すぐ隣にいた

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「千秋、もう晩ご飯なんやから、ご飯並べるん手伝って。お父さん、お風呂出てくるよ」 「もう、お父さんお風呂長いねん。」  私は文句を言いながら立ち上がった。晩ご飯はみんな揃って食べる。それが我が家のルールだ。だから、お父さんがお風呂から出てくるのを待っていないといけない。 「毎日時間を合わせて一緒に食べなあかんか?一人暮らししてるお兄ちゃんが羨ましいわ。好きな時に好きなもん食べれるんやもん」  私には兄がひとりいる。今年から大学生になって、隣県の香川で一人暮らしをしている。 「お兄ちゃん、元気にしとるんかいな」  そう言いながら、お母さんはサンマをグリルから取り出している。 「なんでそんなこと言うねん。元気一杯やろ」  私は冷蔵庫から麦茶を取り出しグラスに注ぐと、一気に飲み干した。うちは年中、麦茶を冷やしているのだ。 「いやあ、なんかなあ。お兄ちゃんぼーっとしとるやろ」  お母さんは考え事をするようにそう言うと、すべてのサンマをグリルから取り出し、食卓に置いた。 「ぼーっとしてるんは、お母さんもいっしょやろ。なにをそんなに心配しとんねん」  私から見れば、お母さんもじゅうぶんボケっとしていると思う。  だが、この時ばかりは、抜けていたのは私のほうだった。
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