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旦樹の長い黒髪が海風に掻き乱される。旦樹は細い目をさらに細くして海の向こうに目を凝らした。
隣に並んだ茗羽の頭巾が跳ね除けられて、短く刈り込んだ頭があらわになる。
呪いによって抜けた毛はなかなか生えてこなかった。まだ薄いところがあって、生え揃わない斑ら犬のような頭だ。
「あれに渡るのか?」
水平線にぼんやり霞んではいるがどうやら島らしきが見える。
茗羽は風の冷たさに震えるように身震いして頭巾を深く被り直し、さも面倒臭いというように気怠げに聞いてくる。旦樹は答えない。
大柄な男と細身の男。黒尽くめの旅装束の2人は崖からよく晴れた午後の海を見下ろしていた。旦樹も鳳茗羽も海を見たのは初めてであった。
鳳家の領地は杷国の南にあり、西の外れは砂漠で南には樹海を越えて死の山がそびえ立つ。北は大河なる長子川を挟んで麟家と龜家の領地、東は龍家。海に接するのは龜家と龍家の領地だった。敵対する前には龍家とは上辺だけは良好であったが、主要商業都市の港町へは招かれたことがなかった。
旦樹は長子川の対岸はもっと厚みがあるように見えていたことを思い出していた。これから向かう先がそれより遠いことを実感し、拳を握りしめる。
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