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目覚めると、敵国である帝国軍の赤いマントを身に纏った優しい瞳をした青年がいて、私の背中を支えて水を飲ませようとしてくれた。
私はそれを、咄嗟に吐き出した。
「大丈夫だ。毒は入ってない」
その青年は自ら水を口に含むとゴクリと飲んでみせた。それを確認してから私は、ゆっくりと水を口に含んだ。
「利口な子だ。……手当はしたが、応急措置にすぎない。傷が残らないようにきちんと医者に見せるんだ。いいね?」
「大丈夫だ。無事に家へ帰してやるから。もう少しの辛抱だ。頑張れ」
そう言ってずっと私を励まし続けてくれた。
あの時助けてくれた帝国軍の青年は誰だったのか。
探したくても、低音で静かに響く声と、ごつごつとした剣だこのある掌の感触しか手がかりはない。
ただ彼が、祖母と同じ、美しい帝国語を話す人だったことだけが、やけに記憶に残っている。
20代半ばとおぼしきその青年に、私は恋をした。
当時の私は10歳そこそこだったから、早熟だったのだろう。
次に目が覚めた時には、お屋敷の自室に寝かされていた。
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