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――やっぱりまずかったよなあ……。
俺は保健室の机で頭を抱えていた。珍しく昼休みも来室する生徒が少ないというのに、弁当を開ける気にもならない。
横山という生徒は、とても優秀な人間だ。授業態度も真面目で頭も良く、難関大学への進学も期待されている。
しかも父親は大企業の役員で母親は医者。自宅は超高級住宅街に構えた豪邸らしい。
まさに選ばれたサラブレットのような人間だ。そんな恵まれすぎるくらいに恵まれた彼が、一之宮のことを侮辱したのがどうしても許せなかったのだ。
そうは言っても、暴力をふるったのはどう考えてもやり過ぎだった。
さらにもっとまずいのは、横山が俺と付き合っていると思い込んでいたことだった。なぜそんな思い込みをしたのかはわからないが、よくよく思い返してみれば、保健室で彼に告白されたとき言葉できちんと断っていなかったのも事実だった。もちろんあのときは話をする余裕がなかっただけだが、横山をそのまま放置していたのは悪手だった。
でも後悔しても始まらない。
土屋に相談するべきだろうか。……でも先日のちょっとした諍いの後、土屋は珍しく怒っているような気配がある。
どっちもこっちも手詰まり。そんな言葉が浮かんできて、何度もため息ばかりが出る。
慌ただしく保健室の扉がノックされたのはそんなときだった。
はい、と返事を返すと、慌てた様子で一之宮の担任の佐々木先生が入ってきた。
佐々木先生とは一之宮の件もあり、密に連絡を取り合っている間にだいぶ打ち解け親しくなっていた。その彼のただならぬ様子に不安が募る。まさか一之宮に何かあったのだろうか。
佐々木先生は硬い顔で俺の近くまで来ると、
「実は、ちょっと見ていただきたいものがありまして」
と切り出した。スマホをスーツのポケットから取り出す。
「……あの、びっくりしないでくださいね」
「はい?」
佐々木先生はスマホを操作したあと、俺に向かって差し出した。
「なんだよ、これ……」
俺は呆然と呟くしかなかった。
スマホに映し出されていたのは、見覚えがあるSNSのサイトだった。この高校の生徒会が管理しているアカウントだ。
そこにある投稿が書き込まれていたのだ。
『この高校の養護教諭の鶴見はゲイで淫乱で施設出の元ヤンキー。お気に入りの男子生徒に手も出している』、と。
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