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すごい勢いで横抱きにされて運ばれ、部屋の奥にあるシングルベッドの上に下ろされた。
身体を拭く暇もなかったから、全身びちゃびちゃだ。しかもタオル一枚でほとんど全裸。風呂場では平気だったのに、場所がベッドの上になった途端、じわじわと羞恥が押し寄せる。
「俺、身体濡れてんだけど……」
ベットに仰向けに転がったまま抗議したが、一之宮は聞いていない。身に着けていたTシャツとジーパンを乱暴に脱ぐと俺の上に乗り上げてきた。
「千草さん……」
俺の身体を見下ろし、うっとりと一之宮が呟く。
俺は彼の身体に指を伸ばした。発達して盛り上がった肩、分厚い胸元、引き締まった腰。指がたどり着いた下半身は、下着の布地を押し上げるほどに膨らんでいる。
――ああ、良かった。ちゃんと一之宮も俺に反応してくれるんだ。
嬉しくなって彼の首に手を回して引き寄せた。一回りほど大きな身体は熱く、合わさった肌からぞくぞくとした快感が広がっていく。
近づいてきた一之宮の唇が、ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てて俺の唇を吸う。何度も角度を変えて啄んだあと、ぐっとキスが深くなった。
潜り込んできた大きく分厚い舌が、俺の口の中のあらゆる場所を遠慮なく暴く。上あごを舐め、歯の裏側をたどり、舌の付け根が痛くなるくらいに吸われる。
「あ……」
気持ちいい。何度もキスを繰り返しながら、お互いの身体をまさぐる。
一之宮の手のひらが俺の肌の上を這う。口づけが耳に、首筋に落ちる。
俺は手のひらで熱くなめらかな彼の肌を味わった。皮膚一枚の下に、手を押し返してくるような弾力がある。ああ、若いなとしみじみ思っていると、一之宮の指が胸の先に触れた。
「あっ」
油断していたので思わず高い声が出てしまった。慌てて口を手のひらで塞ぐと、一之宮が俺の顔を覗き込んできた。
「……可愛い」
耳元にわざと吹き込むように一之宮に言われ、かあっと耳が熱くなる。
「違っ……。なんかお前なまいきだな……」
「だって可愛いんですもん。千草さん可愛い……」
一之宮は可愛い、可愛い、と繰り返し首筋を舐める。濡れた唇は鎖骨を滑り、胸の先へとたどりつく。
「……ん」
ちゅうと音を出して乳首を吸われ、身体がびくんと震えた。左手でもう片方の胸をいじりながら、もうひとつの手がどんどん下がっていく。巻いていたタオルが取られ、足の間ですでに勃ちあがっているものを撫でられると身体が大きく跳ね上がった。
一之宮の手が、先走りを塗りこめるように性器全体をゆっくりと扱く。くちゅりと水音が立ち、どんどん足の中央に熱が集まっていく。
自分の身体を触っているのが一之宮の手や唇だと思うと、信じられないほど昂った。俺も一之宮に触れたい。息を乱しながら、合わさった身体の隙間に手を伸ばした。
彼の下着に手を滑り込ませ、彼の性器を握る。
一之宮が驚いたように息を詰めた。俺がいきなり彼の下半身に触れたのだから当然だろう。だが驚いたのは俺も同じだった。
「あ……大きい……」
手のひらで包んだ彼の性器は、驚くほどのサイズだった。彼の下着をずらし、両手で包み込むとどんどんそこは育っていく。
先端の丸みを撫でもう一つの手で竿をゆっくりと扱く、窪みから先走りが溢れてきた。一之宮が低く呻く。
「っ、そんなにしたらやばいです」
一之宮が焦ったように腰を引く。
「だって触りたい。脱いで」
俺が促すと、一之宮は性急な動きで下着を脱ぎ捨てる。戻ってきたそこに手を添えた次の瞬間、俺は絶望的なことに気が付いた。
「あ、ゴムないな……。そういえばローションも」
「え……」
俺は一之宮と顔を見合わせ黙り込んだ。
完全に準備不足だ。
ゴム自体は探せばあるかもしれないが、一之宮のサイズは絶対にない。ローションもしかりだ。
ああ、と呻きそうになった。こんなところまできてお預けなんて辛すぎる。
とそのとき、一之宮は黙って身体を起こした。そしてベッドをおりてしまう。
「一之宮……っ」
俺は慌てて身体を起こした。怒らせてしまっただろうかと焦ったが、一之宮は部屋の隅に放り投げた自分の荷物をごそごそあさっている。そして何かを見つけてベッドに戻って来た。
「俺、持ってます」
そう言いながら差し出したのは、二枚の小さなの銀色のパウチ。コンドームとローションだった。
「……なんで持ってんの?」
「だって……もしかしたらって思って」
ベッドに正座しながら、一之宮は決まり悪そうに呟いた。そしてみるみるうちに真っ赤になっていく。
なんだよ、すげえ可愛いな……。
首まで赤く染まった彼を見たら、堪らないほどの愛しさが溢れてきた。
他の男だったら『ふざけんなこのむっつりが!』で終わりだが、一之宮がこっそり持って来たと思うと自分でも驚くほどに胸が高揚する。どうやら俺は相当一之宮に惚れこんでいるらしい。
「……一之宮、手ちょうだい」
一之宮から受け取ったローションのパウチを切り、彼の手のひらにとろりとした中身を出す。一之宮が戸惑うように俺を見てきた。
「千草さん?」
俺は彼に微笑んだ。ベッドに仰向けになりながら、ゆっくりと足を開く。そしてローションをまとった彼の指を掴んで、自分の背部に導いた。くちゅりと音がして、後ろの窄まりに濡れた感触が走る。
「んっ」
しばらく自分の指と彼の指で周りをなぞったあと、一之宮の指を包み込むように握り、ぐっと力を入れた。ローションのぬめりを借りて、彼の太く長い指がゆっくりと入ってくる。
「ん、……ん――、あ、そのまま……」
ひさしぶりなので中はかなりきつい。自分でもわかるほどにぎゅうぎゅうと一之宮の指を食い締めている。
「……っ」
一之宮の喉からぐうっと獣が唸るような音がした。
彼の顔を見上げると、怖いくらいに真剣な顔をしていた。目がぎらぎらと光っている。すっかり欲情した男の顔に、ぞくりと甘い疼きが背筋をのぼってきた。
「……俺がしてもいいですか?」
「……うん」
俺が頷くと、一之宮はゆっくりと身体を倒してきた。唇にキスを落とされ、中に含んだ指が動き出す。入口を擦り、ぐるりと淵を撫でる。粘ついた音を立てながらまたゆっくりと入ってくる。
慎重に探っていくような手つきだ。すこしもどかしい。少しづつ奥を目指してくる指使いにそんなことを思っていたら、すぐに一番弱いところを探し当てられた。
「……あっ」
身体がびくんと揺れる。一之宮が慌てたように俺の顔を覗き込んできた。
「もしかして痛かったですか?」
「違う……」
「え、でも」
一之宮が指を抜きそうになったので、俺はその腕を掴んだ。
「もっとそこして。気持ちいいから……」
「千草さん」
一之宮が掠れた声で俺の名前を呼ぶ。眉を少し寄せた表情がたまらなく色っぽい。
くちゅりを音を立て、一本だった指が二本になって入ってきた。もう一度探し出された悦点を二本の指で圧迫されると、背中がシーツから浮き上がるほどに感じ入ってしまう。
「……っ、あ、ん、っあ……」
「千草さん、可愛い……」
一之宮が身体を倒して、すっかり立ちあがり尖った乳首を口に含む。たまらなく感じる中のその場所を指先で捏ねられながら、もう一つの手で蜜をこぼす性器をやんわり擦られるともうだめだった。
快感に腰ががくがくと震えだす。大量の汗が噴き出し、瞼の裏でちかっと光が瞬き始める。
俺は慌てて一之宮の腕を掴んだ。
「あ、ちょっ、……まって、ゆっくり……、あっ、ぁ、あ」
身体がふいにつっぱり、次の瞬間には快感の中に投げ込まれていた。性器からは白濁が噴き出し、彼の手のひらをたっぷりと濡らす。
うそ……。
あまりにもはやい射精に呆然と荒い息を吐いていると、ちゅっと頬にキスをされた。
「ごめん、先に……」
申し訳なくなって謝ると、一之宮は首を振った。
「あなたが気持ちよければ俺もめちゃめちゃ気持ちいいです」
漆黒の瞳が俺を覗き込んで優しく笑う。愛しさで胸が詰まった。
俺だって一之宮を気持ち良くしたい。荒い息を整えながら、俺は身体を起こした。
「お前のもしてやる」
「え」
彼にベッドの上で膝立ちになってもらい、その足元に四つん這いになった。
そっと触れた彼のものは、すでにかたく濡れそぼっていた。赤黒く濡れた先端には先走りが溜まっている。
自分でも驚くくらいに欲情した。
いつのまにか口の中に溜まっていた唾液を飲み下し、俺は舌を出して先端の割れ目をそっと舐めた。茎に沿って舌を滑らせ、また先端に戻ってぴちゃぴちゃと窪みを舐める。そのたびに一之宮は引き攣れるような呼吸音を漏らす。
それがたまらなく愛しくて、俺は口をおおきく開いて彼のものを口の中に迎え入れた。
先端を軽く吸いながら舌を絡めると、彼の体はまたびくんと揺れる。口の中にどんどん先走りが溢れだしてくるのがわかった。
「……気持ちいい」
うっとりするようなつぶやきが聞こえて、身体が一気に熱くなった。一度収まったはずの熱がまた下半身に溜まっていく。
さっきの一之宮の言葉がよくわかった。相手が気持ちいいと自分も堪らなく気持ちがいい。一之宮の性器を舐めながら勝手に腰が揺れる。
「千草さん、えろい……」
「……っ、んぅ……」
すっかり欲情したように囁かれ、熱い吐息が漏れた。口の中の彼の性器ももっと膨らみ、しょっぱいような苦いような先走りの味がどんどん濃くなっていく。彼が自分で気持ちよくなっているという証拠が嬉しくて堪らない。
そのとき、ふいに後ろの窄まりに触れてくるものがあった。
「んん?」
驚いて視線だけを動かすと、一之宮が腕を伸ばし後孔に触れているのが見えた。
一之宮は俺の顔をじっと見つめながら、ぐっと指を進めてくる。くちゅり、と粘着質な音がして指が入ってきた。
「……ん――」
堪らない刺激で口が離れてしまいそうだ。彼の性器を咥えながら熱い息を吐きだす俺を、一之宮も息を荒くしながら黙って見下ろしている。その熱い視線だけで腹の中がどんどん熱くなる。中が勝手に一之宮の指を何度も引き締めてしまう。
もう我慢できない。一之宮が欲しい。
俺は衝動のままに、口の中の性器を強く吸い上げた。びくんと震えた彼の熱い塊を一気に喉の奥まで招き入れ、頬をすぼめて顔を激しく上下させる。
「……ッ、く」
低い声で一之宮が呻く。
お返しだとばかりに後孔の指を増やされた。
太くて長い指が一番弱いところを撫で、内壁を擦りながら奥まで入ってくる。ずるりと抜けてはまたぐっと突き付けられる。
まるでセックスを模したような動きに身体が勝手によじれる。もう彼の性器を舐める余裕などなかった。俺は尻だけを高くあげた状態でベッドに崩れ落ちて、ただ喘ぐことしかできない。
耳を覆いたくなるような酷い水音に、二人分の荒い呼吸が混じる。でももう羞恥は感じなかった。とっくに理性なんか蒸発している。
「……も、挿れたい」
頭上から掠れた声が聞こえた。
俺が頷くよりも前に身体を裏返され、大きく足を開かされる。
一之宮の腕が俺の太ももが抱えた。ほぐしたところに熱く濡れた先端が押し当てられる。ぬるりぬるりと何度か擦り付けた後、丸みを帯びた先端がぐぷりと身体に潜り込んできた。
「あ……っ」
入ってくる。
粘膜を割り開き、狂暴なほどの熱がどんどん侵入してくる。
「あっ、……っ、ぁあっ」
それは経験したことのないほどの圧倒的な質量だった。先端をのみ込まされただけで精いっぱいなのに、一之宮はどこまでもどこまでも入り込んでこようとする。
苦しさで上に逃げようとする身体を、一之宮の大きな手のひらが掴み下に引き戻す。
「……っ、あ、無理、深い……」
泣き言を漏らすと、一之宮が身を倒して唇を塞いできた。
舌を絡める濃厚なキスをしながら、頭を太い両腕で抱えられ、最後までぐっと突き入れられる。
「……っ、……ぁ」
入れられただけだというのに、頭がまっしろだった。もしかしたら軽くいってしまったかもしれない。それくらいの衝撃だった。
喘ぐように呼吸をする俺の上から、ぽたぽたと汗が落ちてくる。
「せんせ、……ごめん……」
その声に目を開くと、彼は真っ赤な顔で苦しそうに肩で呼吸していた。その必死な姿に愛しさがこみ上げてくる。
謝らないで欲しかった。こんなに自分を欲してもらえて、嬉しいばかりなのだから。
俺は力が入らない腕を持ち上げ、目の前の彼の両頬を手のひらで包んで囁いた。
「大丈夫だよ、おいで」
「……先生」
一之宮の顔が泣きそうに歪む。同時にぐっと腰が押し付けられた。
ゆっくりと熱が抜け、また戻ってくる。ゆっくり始まった抽挿は、すぐに激しくなっていく。
「…………あっ、……あっ、……んっ、んぁっ」
それは技巧も何もない、ただ狂うように吹き付ける嵐だ。でも俺だけを求めてやまない、誰よりも愛しい男の言葉のない叫びだ。
「先生、せんせ」
一之宮が荒い呼吸の中でうわごとのように呟く。
揺さぶられ、もみくちゃにされ、奥の奥をめちゃくちゃに突かれて、俺は必死に一之宮の身体にしがみついた。
「い、ちのみ、や、いちの、みや」
好きだ。信じられないほどに好きだ。
ずっとそばにいて。
絶対離れないで。
いろんな言葉が胸の底から湧き上がってくる。たくさんの伝えたいことはあるのにちっとも言葉にならない。だからなんの飾り気もない短い言葉を必死に繰り返した。
――好き、好き。
「せんせ、好き、好きだ」
一之宮が泣きそうな声で呟きながら、唇を寄せてくる。深いキスを交わしながら、俺はほとんど泣きそうだった。
もうすでに好きすぎておかしくなっているのに、これ以上一之宮から好きと快感を注がれたら溺れてしまう。
怖い。苦しい。でも嬉しい。気持ちいい。
心の感情と身体の感覚が交じり合い、訳がわからない。
「……ああっ」
誰にも触られたところのないくらいに身体の奥深くを突かれ、背中が弓のようにしなる。
身体が二つ折りにされるのではないかと思うほどに腰を上げられ、上から遠慮のない熱が落ちてくる。頭がまっしろになっていく。熱と快感が身体中を渦巻いて、一点を目指して吹き出そうとしている。
「あ、あ、いく、い……く」
最後のときを予感して、中がぎゅうと勝手に狭まる。一之宮が呻き、俺の身体を抱きしめながらひと際強く奥を突いた。
「……あ――――」
身体を仰け反らせて、俺は絶頂した。重なった二人の身体の間に白濁が散る。
一之宮もまた息を詰め、次の瞬間身体の奥で熱が弾けた。迸りに内壁が濡らされ、それがまた快感を引き戻す。
「あ……あ……」
俺は目を固く瞑って何度も襲ってくる快楽の波に耐えた。
はあはあと荒い息を吐きながら、力尽きたように一之宮が体重をかけてくる。
「幸せすぎる……。もう死んでもいいかも」
その言葉に俺は目を開けた。
一之宮は汗でずぶ濡れだった。でもとろけそうな笑顔だ。
「……ばか」
俺は笑って、彼の乱れた髪の毛を掻き上げた。至近距離で見つめ合い、また何度もキスを交わす。
「千草さん、好きです」
「うん……」
「ほんっとに死にそうなくらい好き」
「うん」
「絶対離さない」
俺の顔を見つめながら、一之宮が囁く。
何度も頷きながら涙が零れた。
ずっとこれが欲しかったのだと、自分はようやく掴んだのだと、子供みたいに声をあげて泣きたかった。
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