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 自分がゲイだということに関して、俺は『だからなんだ』というスタンスだ。  そのことで悩んだり、自分を嫌いになることはなかった。だってそう生まれついているのだ。変えようがないことは仕方がないじゃないか。  でも同時に、世間でその理屈が通用しないということも身に染みてわかっている。  特に学校は古い価値観の巣窟だ。一之宮が言ったように、俺がゲイであることをばらされたら仕事は相当やりにくくなる。さすがにこの時代すぐに理由に解雇されることはないだろうが、あの手この手でじわじわと退職に追い込まれていきそうだ。  はあぁ、と大きなため息をついて、俺は保健室の机に突っ伏した。   夜の街で一之宮と遭遇してから一週間も経っていた。それなのに、俺は未だに彼のことを学校側に報告できずにいる。  あのときの脅し文句に屈したわけではない。まずは一之宮と直接話を……と思い機会をうかがっているのだが、肝心の本人を捕まえることが出来ないのだ。  あまりに埒があかないので一之宮の担任に尋ねてみれば、彼はこの一週間、学校に来たり来なかったりなのだと言う。 『もともと遅刻も早退も多いし、あまり授業にも積極的に参加するような生徒ではないので』  担任の佐々木はため息まじりに言っていたが、あまり深刻にとらえていないようだ。俺が自宅を訪ねるように勧めてみても、のらりくらり躱されてしまう。きっと佐々木にとっては生徒の模試の結果や進学先がはるかに重要なことで、お世辞にも真面目な生徒とはいえない一之宮は眼中にないのだろう。そう思うとさらに気持ちが沈んだ。  あの背中の傷に夜のバイト。  一之宮が何かしらの事情を抱えていることは明白だ。彼と知り合ったのはつい最近だが、どうにも気になって仕方ない。一之宮がどことなく昔の自分に似ているような気がするのだ。 「どうしたら捕まえられんのかなあ……」  俺は飲み干したコーンポタージュの缶をからからと振りながらぼやいた。  学校にも来ない。来たとしても、保健室に在中しなくてはいけない俺には、彼を捕まえるのは難しい。担任つてに呼び出してもらったとしても、素直に従うとは思えないし。  それならば。  そのとき俺の頭には天才的な考えが閃いた。そうだ、どうして思いつかなかったのだろう。  学校で捕まえられないのなら、直接彼の家まで行けばいいのだ。    
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