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人間技では引き抜けないんじゃないかっていうド根性な巨大雑草が生え放題。それを渾身の力で引っ張っている背広姿の兄ちゃんがいた。
ほとんど誰も来ることのない、校庭を越えた敷地の端っこ。茂貞は小高い丘に位置するここで、暮れゆく町並みを一人眺めるのが癖だった。
「おい。おおい。お前、手伝え」
その兄ちゃんと目が合ったとき、嫌な予感はしてた。回れ右して帰ろうとしたところ、その何というか、柔らかなトーンの割に逆らいがたい威厳のある声に縛られた。
「全く。いつからこんな放りっぱなしなんだ。部活はどうなってる」
そんなセリフが出るということは、うちの高校のOBだろうか。
「お前。何て名だ。野球部か」
そいつが聞いてきた。
小さな頃から「知らない人と口をきいちゃいけません」と教え込まれている。そっぽを向いていると、「その横顔。うちの娘にそっくりだ。お前……ひょっとして茂貞か?」とそいつは言った。
なぜわかるんだ、とストレートな驚きが顔に出てしまった。
七三分けのサラリーマン風の、やたら肩パットが大きく張った背広の上着、ペーズリー柄ネクタイのダサイ結び方。
「俺、俺、俺」
――詐欺だな。さっさと逃げよう、と茂貞が腰を引いた瞬間、「龍也だ。俺、小坂龍也」と――母の父、つまり祖父の名をそいつは言った。
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